七姫幻想
森谷明子 双葉社タイトルがとても好き。七夕の七姫の話。古事記の時代の衣織姫から、同母妹の斎姫と恋をする軽皇子の話、いずれの御時か知らねど女御更衣数多さぶらいたまうときの話、末法の世、そして江戸時代の一つの恋。ときは流れて、七人の姫の影がふらりさまよって、恋の話が紡がれます。かたん、かたん。姫たちの織る、織り機の音にさそわれて。おんなの話になりすぎていて、少々苦手なところもあったのですが、もともとが好みの構成の小説なので、すんなりと読めました。「男」とか「女」とか、書き分けちゃうと、少しお話が古くさくなる印象があるんです。で、あんまり好きじゃない。少年とか少女とかなら好きなんですけど。性差はあると思うんですけど、「女だからこう考える」とか言われちゃうとねえ。どうして「私だから、こう考える。」っていえないんでしょう。私は多情で閨の技法に長けていて「女はみんなこんなもの」なんて言ってる女の方は苦手ですけど、「私だから得意なのよ。」とあっけらかんと言ってくだされば、その人のことは好きになれます。できたら、黙っておいて欲しいんですけどね。秘すれば花って言葉もあるのになって、赤裸々な小説など読むと、思ってしまいます。どうせむっつりすけべですのよ。深読みしてときめく方が好きなんです。あらら、脱線。七姫幻想は、特段に色っぽいお話ではありません。ただ、近親相姦も一つのテーマになっていますので、どうしても肌に触れるエピソードが出てきます。赤裸々ではないけれど、ちょっと濃い空気を感じてどきどきしてしまいました。「朝顔斎王」という話がとても好きでした。この短編が読めたから、この本を読んでよかったって思いました。大好きな人が登場するのが、嬉しかった。私は小学校の図書館で、あなたの書いた本をなんべんも読み返したんだよって、伝えてあげたかった。王朝ミステリーって帯にはあるけれど、ミステリーというよりも、恋物語の雰囲気です。逆にミステリ色が少々邪魔なところがあるので。謎は解決するより時の流れとともに判明していく形式で、姫の幻想を追ったほうが良い小説になったのではないかしら。というもどかしさがありました。ミステリとしても、てがかりをすべて表示して、論理的に謎が解き明かされるので、気持ちよいほどフェアな小説ではあったんですけど、逆にそこが軽い印象になってしまっている感じ。これだけきれいに時を流して連作長編になっているのに。時の流れこそが、大いなる謎なのに。ほんの少しもったいない気がするのです。似たものがあるようでない小説です。日本の古代はおもしろいと思います。