二十歳の頃のままで。
意志の強そうな瞳と賢そうな口許のその女の子とは、同じ大学でも、言葉を交わしたことはありませんでした。でも構内ですれ違ったり、同じ講義に出ていたのだったでしょうか、入学して一年を過ぎる頃には、お互いに目礼や会釈をするようになり、外で見かければ笑顔も交わすようになりました。機会があれば、そのうちおしゃべりするだろうと思っていたけれど、その年のある夏の日、珍しいその彼女の名前を、わたしは新聞で読むことになりました。たくさんの犠牲者のなかのひとりとして。あの頃の彼女の、ちょうど倍の歳になりました。毎年この時期、あの大きな事故が取り上げられる度、二十歳だった彼女の姿が浮かびます。友だちとも呼べないわたしが記憶に留めているその姿は、きっと二十歳のまま、彼女を愛した人たちの中に生きているのでしょう。