『高台寺』
「ちょっと言いたくなる京都通」として奥深い京都の良さや 京都の人も知らない情報などをおりまぜながら、 わかりやすく紐解いていきたいと思います。 ぜひ身近に京都を感じてください。 さて、宇治茶の歴史にゆかりの深い人物の一人に豊臣秀吉がいますが、 彼の正室であった『北政所』をご存知でしょうか。 『ねね』という名前の方が聞き覚えのある方が多いかもしれません。 政略結婚が普通であった当時、秀吉とは珍しい恋愛結婚で結ばれ、 仲睦まじい夫婦であったといわれています。 その『ねね』が秀吉の菩提を弔うために開創した『高台寺』を今回ご紹介していきます。 ■ ねねの秀吉への情愛が満ちてるんえ。 「ねねさん」と言えば、豊臣秀吉の良き妻「北政所」としてあまりにも有名な女性です。 一国のトップとして国を司る秀吉を支え続けました。 秀吉の活躍には、ねねの力が大きいと言われています。 そしてねねの強く優しく聡明な人柄と美しさは今なお、多くの女性に支持されています。 「高台寺」は秀吉亡き後、1606年(慶長11年)に、ねねが秀吉の菩提を弔うために開創しました。 当時、武将の妻は、夫が亡くなると小さな寺で院政するのが通常でした。 しかし、ねねはこの地に10万坪の寺を建立します。 そのスケールの大きさにねねの人望の厚さがうかがえます。 徳川家康は、政治的配慮から多大な財政的援助を行い、そのため寺は壮麗をきわめたと言われます。 ねねが多くの人に慕われたからこそ実現した高台寺の建立。 現在の高台寺は15,000坪。 残念ながら度重なる火災や廃仏毀釈により、失った建物も多いそうですが、重要文化財指定の「表門」、「開山堂」、現在も北政所が眠っている「霊屋(おたまや)」など、数多くの素晴らしい歴史的建造物が残されています。 また、お茶をたしなむのが好きだった秀吉が、伏見城で使用していた茶室、「傘亭」と「時雨亭」を、ねねは高台寺の庭園に移築させました。 「傘亭」は、利休の意匠で、傘を開いた時のような放射状に組まれた天井がユニークな茶室。 「時雨亭」はめずらしい2階建ての茶室で、「傘亭」とは、土間廊下でつながっています。 美しい庭園は、作庭家・小堀遠州の代表作。 偃月池(えんげつち)と臥龍池(がりょうち)という2つの池の間に「開山堂」が建ちます。 東山を借景とし、北に亀島、南の岬に鶴島を造り、「鶴亀の庭」とも呼ばれ、その石組みの美しさは桃山文化の美意識を表現しています。 偃月池に映る月を観るための、「観月台」は秀吉がこよなく愛したと言われています。 「開山堂」と「霊屋」を結ぶ臥龍廊(がりょうろう)は、龍の背に似ていることから名づけられました。 夫、秀吉が愛した建物や風景に囲まれて余生を送ったねね。 秀吉への深い愛を感じずにはいられません。 質実剛健なイメージが強い禅宗でありながら、高台寺にはねねの女性ならではの優しさが随所に見られます。 果敢な昇り龍の秀吉を思わせる建築に、ねねの優美さが醸し出された庭園。二人のコラボレーション…おしどり夫婦の絆が今なお感じられる佇まいです。 ■ お茶を愛し、人を愛したんどす。 秀吉が千利休を好み、茶道を好んだことはよく知られています。 利休がお茶のお手前、茶道という様式を確立しましたが、それ以前は、お茶が体に良い「薬」という考えで好まれていたようです。 秀吉がこよなく茶道を愛したのは、お茶席がひとつの交流の場であったからではないかとも言われています。 お客様を接待したり、気の置けない人たちと会話を楽しんだりする場。時として、恋人たちの語らいの場として、時として政治の密談の場として、お茶席は様々に使われていました。 いずれにせよ、同じ空間でお茶を飲みながら、穏やかなひとときを誰かと過ごす…という人とのつながりを大切にする秀吉ならではの嗜好の表れではないでしょうか。 強いリーダーシップと多くの人を魅了するカリスマ性があった秀吉。 リーダーは孤独とよく言われますが、秀吉は決して孤独ではなく、秀吉自身も人が好きで多くの人との交流を好んだと思われます。 「<茶飲み友達>という言葉もあるように、形式張ったお茶の作法を大上段として考えるのではなく、お茶の持つ世界観を大きくとらえ、人と人との交流や楽しむことの道具として考えても、お茶は素晴らしいものです。 そのような気持ちでお茶席に入るのもおもしろいし、ひとつの方法でしょう」と間宮義信事務長は語ります。 秀吉、ねねともにこよなく愛した茶道。 その流れをくみ、400年経った今も、高台寺では季節ごとに様々なお茶会を開催しています。 最近は、外国の方々も多く参加されているそうです。 「京都に来たビジターに、心をこめてお茶でおもてなしをする」ということを基本にしている高台寺。 茶道の難しい作法を知らない人も気軽に参加できるように、カジュアルなやり方を心がけているそうです。これからの季節、ロウソクの灯りだけでお茶を楽しむ「冬の夜の茶会・夜咄(よばなし)」が開催されます。 当日は、有名な「高台寺蒔絵」の手桶水指、花筏炉縁などを主体に道具立てをします。 桃山美術を彷彿とさせる「高台寺蒔絵」は、黒漆の面に金粉を蒔いて文様を浮かび上がらせた美しく貴重な品々。 実際に目にするチャンスです。 「お茶の席」と聞くと緊張するかもしれませんが、最初は誰しもわからないもの。 隣の人の真似から入ってもビキナーなら大丈夫。 徐々にお茶というものを自分の中に取り入れていけばよいそうです。 お茶会デビューは肩の力をぬいて始めましょう。情緒ある夜のお茶席へ、参加してみませんか。 ■ ロマンティックな夜の紅葉は圧巻え。 誰からも尊敬された北政所。 「ねねさんにあやかりたい」「ねねさんの人柄に触れてみたい」と、多くの人々が高台寺を訪れます。 いつの時代も男性が望む理想の女性像。 また女性も憧れる素晴らしい女性の先輩。 ねねが生存中も多くの人が彼女を訪ねて来たと言います。 面倒見のよいねねは、来る人はこばまず、何日も滞在する人にも情をかけたそうです。 優しさに満ちたねねの信条を今に伝える高台寺。 北政所が亡くなった後も、サロンのように色々な人が集まる場となりました。 人が人を呼び、人や物も集まってゆきます。 そのような人の輪と和の表れとして、こちらには貴重な美術品も沢山所蔵されています。 古くからの「サロンの精神」を大切に、現在もお茶会をはじめ、美術品の展示、ジャズやコンサートなどの音楽会…柔軟で開かれた寺として、幅広いイベントが開催されています。 新しい事や物を取り入れる斬新な考え方は秀吉から、多くを受け入れる包容力はねねから受け継がれてきました。 高台寺は紅葉の名所でもあります。 日中、山や空を背にした紅葉も美しいですが、夜のライトアップに浮かび上がる赤く染まったもみじも情趣を誘います。 最近、秋の夜のイベントとして京都のお寺でみられるようになった、夜のライトアップは、遷都1200年を記念して、1994年に高台寺が最初に始めました。 日中なかなか紅葉を鑑賞する時間がない人にも人気があります。 夜の庭園ならではの風雅な光景は息を飲むほどの美しさです。 臥龍池(がりゅうち)に映る真っ赤なもみじがライトアップのクライマックスを飾ります。 高台寺周辺は、石塀小路、ねねの小径、ねねの道、台所坂と石畳ロードが続きます。 遥かいにしえのねねを想いながら、趣きある石畳の道を歩くのも楽しみのひとつです。 秋から冬へ、夜が長い季節、紅葉と美術の両方を堪能できるなんて素敵ですね。 大切な人とご一緒に、ロマンティックな秋の夜長を満喫してみませんか。 取材協力:高台寺 京都市東山区高台寺下河原町526番地 電話 075-561-9966 美しい古都に思いを馳せつつ、おいしいお茶を飲みながら はんなりとした時間を過ごしてみませんか。