たかさんの宿

人間の脳ってすごい

記憶って、すごいよね。


「あの人名前なんだっけ？」


思い出そうとしても、なかなか出てこないのに。


記憶は脳の奥に埋まってる。

思い出せないのに、脳のどこかには、確かに存在する。


ふとした時に、それが表面に出てくるの。



お・か・む・ら・ま…


あ！


そんな人、居た。




自分がフルネームを覚えていることに自分で驚く。

しかも顔までがハッキリ頭に浮かんでしまった。


そんな人、確かに居た。


ほんの少し、すれ違っただけの人なのに。



最初は下の名前しか知らなかった。

電車の中で私が聞いた。


「苗字は、なんて言うんですか？」


「有名な芸人と同じ。」



だからフルネームを覚えてた。
ただそれだけ。


そしたら、隣に居た二人のことも思い出した。

やっぱり名前しか出てこなかった。



私のこと、名前で呼んでた。

きっと誰もフルネームを知らなかった。


私はただの、電車の一両目で会う、女子高生。



電車の彼は、私が電車に乗り遅れた時にだけ会う専門学生。

ただ同じ車両に乗ってる。


遅刻が多い私に


「また、遅刻。」


そう言いたいだけ。



でも彼はいつも言う。

みんなは、電車を降りるのに。

「次の駅で降りるから」



学校はどっちの駅からでも行けるんだ

って言ってたけど。


「遠回りじゃん。」






でも知ってる。

電車を降りるといつも電話をかけてるの。

四年も付き合ってる彼女だって。




そんな関係。

電車ですれ違うだけの。


私はただの…


「おはよう、女子高生。」



「おはよう」




そしてまた、ほんの少しだけわざと。

一本電車を乗り過ごす。


「おはよう、女子高生」