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2008.03.21
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カテゴリ:愛情いろいろ
女は仕事が終わると、
駅前の喫茶店で、コーヒーを飲むことが習慣になっていた。

水曜日の夕方、いつものように喫茶店に入ると、
顔なじみのウエイトレスが、
いつものように幸せそうな微笑みで応対した。

同じテーブルで、同じウエイトレス。
そんな光景が、何年も続いていた。

殆ど店内で、会話を持った事の無い女は、
何故かその日は、そのウェイトレスに質問をしてみた。

「どうしていつも幸せそうなの?」

ウェイトレスは、
女の質問に一瞬戸惑いながら、嬉しそうな表情で、
生活は厳しいが、愛する家族がいる事を話してくれた。

彼女は子供はもちろんの事、
ご主人もずっと愛し続けてているようだ。


帰りの電車の中、
女はこれまでの自分の人生を振り返っていた。

結婚して子供も授かったが、その後離婚。
子供を引き取り、元々キャリアを持つ職場へ復帰をする。

それ以来、
他人を愛する心に蓋をし、がむしゃらに働いてきた。

給料もそこそこ貰い、子供にも、
金銭的には不自由させる事は無く、暮らしていた。



女は自分に質問を向けてみた。


「私は心から愛した人が、今までに居ただろうか?」


直ぐに答えは出てこなかったが、
電車のドアの脇にある鏡が、別の回答をサポートしてくれた。

口角の下がった口、手入れを怠った髪、
朝したきりで、直す事の無い化粧の落ちた顔が、そこに存在した。


女は一瞬落胆をしたが、直ぐに思い直す事が出来た。


「自分から愛してみよう」


そして、電車のドアが開き、改札を抜けると、
手に持ったバッグを、360度回転させながら、
走っている自分の姿があった。

次の日から、女はその喫茶店には行かなくなった。
数年前から「自分を愛する」というメッセージを伝えていた、
ウェイトレスの役目は終わったのだ。

ウェイトレスは、店内のスタッフと話をしていた。
「いつも来ていた女の人、来なくなっちゃったね・・・」

あの日、自分と電車の鏡による絶妙なコンビネーションで、
一人の女が幸せに向かいだした功績を、彼女は知る由も無い。


ウェイトレスは今日も微笑みながら、
客にコーヒーと幸せを運んでいる。





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Last updated  2008.03.22 04:23:02
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