|
カテゴリ:感謝
「おはようございます、準備お願いします」
毎朝、携帯電話で僕は起された。 その日の予定もわからないまま、車に乗せられて、 コンビニでパンと缶コーヒーを買い、目の前の仕事をこなしていた。 そして、帰りは深夜。 車や電車の中と、どこかの部屋や会場にしか身を置いていない。 その繰り返しの日々が、半年以上も続いていた。 人はそれを、多忙な毎日と呼ぶのだろう。 だが、やっている本人は、ぜんまい仕掛けの人形のように、 意識も無く、言われるままに身を任せていただけであった。 ある時、知り合いの女性が、 ぬくもりの残る袋を、僕に手渡してくれた。 「実家で取れた枝豆なんですけど、食べてください」 枝豆は、それほど好きな食べ物ではなかったが、 お礼を言って、家に持ち帰った。 灯りをつけ、テーブルの上に置かれたそれを、 少しの間眺めていた。 そういえば、ここしばらくは、 まともな食事をしていない事にふと気付く。 枝豆を口に入れた。 「もう夏の入り口なんだ・・・」 そう思いながら、何故か涙が出てきた。 別に、悲しいわけでも無く、 今を不幸だと、感じている訳でも無い。 ただ季節を感じれた事が、嬉しかった。 まだ通っているぬくもりと、 塩の香りと、初夏の味が嬉しかった。 それからしばらくの間も、相変わらずの日々であったが、 その日から心の通った言葉が、僕の口から出るようになった気がした。 この季節になると、ふと思い出すあの頃の出来事です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[感謝] カテゴリの最新記事
|