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ヒモいらず 亭主いらず

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2007年07月02日
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「ちょっと!いつまで電話してるの!」

郁子は苛立ち大きな声で長電話をする娘に一喝する。

「…んっ?いいのいいの!もう うるさくって」

娘は一向に電話を切る気配がない。

 

苛立ちながら郁子はシンクの夕食の洗い物を

大きな音を立てながら洗い始めた。

「まったく もう!」

見かねた夫が

「そうカリカリしないの あの頃 俺たちだって

 長電話しただろ?あの頃 オマエのお父さんに…」

「だから なんとか言ってやってよ!毎日よ!

 私の言うことなんて 聞きもしないんだから」

洗い物をやめて夫に向き直る郁子

「はい はい」夫も とりつく島もない妻の態度に

辟易してベランダへタバコを持って立ち上がって行った。

「まったく 面倒なことは全部 私じゃない!」

再び 洗い物を始めるが、

苛立ちでガラスのコップが割れる。

割れたコップの鋭利な破片を拾い

今の自分の心の様だと我に返る。

 

「ちょっと こんなにヒールの高いクツ履いて!

 グラしたら どうするの?」

玄関に下ろされた 真新しいサンダル

「平気よ これくらいのみんな履いてるわよ」

奥からアイロンで巻き髪にした娘がやってきた。

「ねぇ 出かけるなんて聞いてないわよ」

「いってきます。9時までに戻ればいいんでしょ?」

「どこへ?誰と?」

「ユウキとご飯一緒に食べて買い物!」

「昨日の電話にしても 長すぎよ いくらバイト代で

 ケイタイ払うからって言っても払いきれないでしょ?

 約束は守りなさいよ」

本当は言いたいこと話したいことはイッパイあるの

でも ココで追えば娘は話しなど聞きはしなくなる。

言葉を選び簡潔に言ったつもりだったが

娘は「はぁ~い いってきま~す」と あっさりかわして

うるさそうに出ていった。

 

日曜日になると家族とは別行動

娘と一緒に出かけたのは いつだったかしら?

もう1ヶ月一緒に外出していない。

さみしい様な哀しい様な このままドコかへ

行ってしまいそうな娘の後ろ姿に

「今日は早く帰ってきてね 夕ご飯一緒に食べよう」

娘は返事をしなかった。

諦めた様にドアを閉める郁子

いつから こんなに気持ちが離れてしまったんだろう?

玄関に飾った写真立て

3年前に行った家族旅行の みんなが笑っていた。

 

玄関先に置かれたサンダルを持ち上げ

掃き掃除をする。

「もう!こんなヒールの高いサンダル履いて!」

でも そのサンダルを履いてみたい気持ちになった。

娘の成長を確認したかったのかもしれない。

 

 歩き始めの頃 クツ底が固いと歩き辛いから

 柔らかいのを探したなぁ 

 コムサの奮発しちゃったりして

 クツを嫌がって「抱っこ!」なんて言ったクセに

昔を思い出しクスっと笑う

自分と同じ大きさのクツを履くようになった

娘の成長を足で感じる。

「お母さん!ほ~ら そんな高いクツ履くと

 転んじゃうわよ」娘が笑いながら見ていた。

「やだ!見てたの?」照れながらクツを脱ぐ郁子に

「両方履いてみれば?お母さんだって 

 昔は履いたでしょ?あっ!大昔か?」

「なによ!大昔とは!」サンダルのホックをはめながら

言い返す郁子に娘が

「結構 足長く見えるのよコレ 姿見 見てみれば?」

「なに言ってるのよ!お母さん足長いんだから」

「ほ~ら!長くなるでしょ?」娘が姿見を指さす

たわいもない会話がうれしい

ギスギスした日々があったのがウソの様だ

サンダルを履き照れて笑う郁子に からかう娘

 こんな会話も思い出になってしまうのかしら

「あっ!この前遅くなったから

 今日は早く帰るね 今日は夕飯手伝うわ」

サンダルのホックを止める郁子の髪に

白髪を見つけ いつまでも甘えて勝手なことばかり

言っていた自分が恥ずかしくなる娘

照れ隠しに親孝行のつもりで言った言葉

「珍しいわね じゃあ今日は奮発して 

 柏屋で良いお肉買っちゃおうかな」

娘の気持ちがうれしくて郁子は上機嫌である。

「じゃぁ行ってくるね 夕方には帰るから」

「車に気をつけてね」出がけに いつもかけていた言葉

久しぶりに娘の背中にかけてみた。

 ちょっと前まで赤いランドセルの背中に

 かけた言葉だったのに

娘が ゆっくり笑いながら振り返り

「『転ばないでね!』を忘れているわよ じゃ!」

自分の心を先読みするまでに 

成長した娘の白いカットソーがまぶしくて

目を細めて手を振った。

「けっこう 良い子に育ってるじゃない」

玄関に入り写真立ての家族に微笑まれた。

 

 

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最終更新日  2007年07月02日 15時52分42秒
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