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テーマ:恋愛について(2622)
カテゴリ:忘れられない人々
「お前に、電話だよ。」
父も兄も帰りが遅く、母と二人して食事をしているとき、電話がかかってきて母が出た。 「タコ、元気にしてる?あんな形で家をでてしまって、本当にごめんなさい。」 電話は、二ヶ月前に突然私の前から消えてしまった、松村早苗さんからだった。私より一つ年上で、池袋の場末の喫茶店で大学を休学しながらバイトをしていた。そして、私と知り合った。大学の入学式の前日ということで浮かれた調子で入った店だった。一浪してやっと入れた大学、そして同時に淡い恋も歩き始めた。 「今、どこにいるの?」 「金沢の友達の所。絶対に探したりしないでね。」 冷たい返事が返ってきた。 婚約者がいて、事情があって喫茶店で身を隠すようにバイトをしていて、19歳の私と付き合う。そんな芸当のできる人だった。恋多き人だったのだろうが、私の目からは本当に純な人に見えていた。ジーンズがよく似合う、切れ長の目をしたハスキーボイスの魅力的な人だった。もう十分大人の匂いを漂わせている二十歳の女性の魅力だった。私が、生まれて初めて真剣に結婚を思った人だった。それが、どんなにうぶなものであったとしても、また全くの独り相撲と分かった後からでも変わらぬ事実ではある。 「6月9日にね、お兄さんから電話があって、東久留米の喫茶店で会ったよ。どうやって僕の電話がわかったのかしらないけど、、、、」 「そう?机の中のメモか何かで分かったのね。ごめんね、そんな思いまでさせて。」 母の食事の音が小さく聞こえている。 「じゃ、元気でね。もう切るわ。絶対に探さないでね、、、、。」 たった二ヶ月の恋の名残をもっとゆっくり話したかったが、そんな余裕をまったく与えてくれず電話は切れた。 食卓に戻った。母は、何も訊かなかった。それから、私の小さな心が切り揉まれるような日々が半年ほど続いた。それは、1972年12月の8日のことだった、、、、 毎回、果敢にこの緑の箱をクリックよろしくお願いいたします。 タコ社長の本業・オーストラリア留学 タコのツイッター Twitterブログパーツ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012年11月11日 21時06分22秒
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