もう10年以上前になる。
田舎から都会に旅行にやってきたモルモンさん。
普段は小学生と幼稚園の男の子2人の子育てで
ゆっくりする暇がない。
「こんなときこそ、自分にごほうびよね。」
自分への東京みやげは、何がいいかしら。
せっかく来たんだもの、何か珍しいものとか。
自由が丘といったらフローレス セイコじゃないの。
ぜったい、ここ行っとかないと。
あれこれリサーチして行きたいところは予定に入ってるみたい。
フローレス セイコのショップももちろん見学(買物?)
したけど、ちょっと雑貨のお店でかわいい柄の傘を発見。
「んま。かわいいチューリップ。」
「ぜったいこれって広島にはない柄よね。」
「なんだか出会えない気がする。」
「決めた!」
モルモンさん、チューリップ柄に惚れて
定価5000円のクレージュの雨傘を購入した。
しかし。
あー、荷物になるわね。
仕方ないね、宅配便でうちに送ろう。
そして、自由が丘で東京っぽいクレージュの傘は
モルモンさんとは別に飛行機で帰ってきた。
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翌週は午後から雨降り。
モルモンさん、次男のお迎えに幼稚園に向かう。
おニューのチューリップ柄の傘で幼稚園に向かう。
幼稚園では、雨天のためいつものように園庭で解散ではなく
教室でさよならをしておかあさんがお迎えにきた園児が
つぎつぎに靴を持ってあらわれる。
そこへ。
「モールモンさぁーーーん」
背後から呼ぶ声。
振り向く。
「おソロじゃねーーーー」
「キキキキ、キヨサカさんっ?!」
モルモンさんが振り向いたその先は。
自由が丘で買ったチューリップ柄の傘とまったく同じ傘を
さしたクラスメートのコマユくんの母、メィ子さんが
うれしそうに立ってました。
「偶然じゃねーーーー」
「あたしねーー今日がお初なんよーーー」
「あああ、あたしもっ!今日初めてなんじゃけどっ!」
モルモンさん、都会っぽい柄と思い込んで
自信満々で買った傘だったけど、いきなり同じ傘を
持って現れたメィ子さんに動揺を隠せない。
「あのっ! それ最近買ったのっ?!」
「そーなんよー。このピンクとねー
あとはベージュと水色があったけど、一緒に選んでくれた友達が
ピンクが一番顔うつりがいいって言うたからーー」
「くーーっ! そうなんよ!ベージュも水色もあったけど
ピンクが一番かわいいって思ったんよ!!」
「あっ!」
「で?!で?! 傘どこでいくらで買ったん?!」
「でへへ。あのねー。本通のフクマで定価の三割引」
「くっーーーーっ! あたしの半値じゃないの!!」
モルモンさん、どうやら定価で購入してダンボールで頑丈に
梱包して宅配便で自宅に送ったために
メィ子さんと同じ傘を二倍の値段支払ったという。
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さて。
10年以上たっても、まだ現役のちぅりっぷ柄の
おぴんくの傘は昨日もちょいとメィ子さんのお供をした。
(夕方から雨ってどの予報でも言っとるし。明日の朝もだから
多分降りっぱなしなんだろうよ)
予報があたったら帰宅する頃には傘は手放せないだろう。
折りたたみじゃなくてやっぱり長傘よね。うん。
バス停について、バスカードをポケットに入れようと
ほんの少しだけちぅりっぷ傘から手を離してベンチにたてかけた。
そのまま放置した。
バスの中で気がついたメィ子さんだったが、
(もう10年だもんね。バス会社にあとで電話して
見つからなかったらあきらめよう。)
お気に入りのちぅりっぷ模様の傘だけど、なんかあっけなく
手元からなくなってしまった。
ところが。
5時間後、バスでUターンして帰ってきたメィ子さんが
反対車線のバス停のベンチでみたものは。
(ある!)
(傘がある!)
確かに、バスの時刻表のポールとベンチの間にたてかけられた
ちぅりっぷ柄の傘がある。
ちょこんとたてかけてある。
まだくるくるたたんであるけど、ちぅりっぷ柄の傘である。
メィ子さん、右みて左みて右みて道路を横断する。
駆け寄って手に取る。
(あったーーーー!!)
(ってか、途中雨がふってたら絶対なかっただろうな)
ゆうべの予報は雨だったにもかかわらず、なぜかうちの近所は
一粒も降ることはなかった。予報どおりに雨が降り出したら、
ちょっと失礼とか言って持ってっちゃって、多分その場にはもぅなかったかも。
こうして、モルモンさんをがっかりさせたちぅりっぷ傘は
再びメィ子さんの元にもどって、まだしばらく現役で
頑張ることになる。
しかし、メィ子さん以外の家族はちぅりっぷ傘三割引以上の
値段を投資して、100均の傘を何度も何度も買い換え、
メィ子さんの節約魂を無駄にしている。