今年は受験生が我が家にはいない。

なので、あんまり気にしていなかったけど、
公立高校の合格発表が行われたと新聞の記事で知り、
母校のクラスメートのお嬢さんもこのたびの選抜試験で
コマユが通うヌマッチョ高校に合格したそうだと
人づてに聞いた。

ほぅ。あのすったもんだから一年たったのか。

ってか、うちは受験の時はいつもすったもんだがあるが
去年のすったもんだは日記のどこにも残していない。

あんなにガッカリしたりカッカしたのに、それ以上に忙しかったのだろうね。

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それがさ。

一年前の公立高校の合格発表の日ですよ。

カズヲさんもアタシもその日は出勤日。

で、いつもどおりに家を出る。

ヌマッチョ高校の合格発表は午後１３時と聞いていた。
出勤してシフトを確認したらちょうど休憩は１３時から。

じゃ、メールくれるかな。

しかし。

休憩時間に入ってもメールはこない。

休憩時間が終わるのにメールはこない。

だめだったかな。

仕事がすんだ。

メールは一つもない。

センター問い合わせしてもない。

だめだったんだろうな。

一瞬であきらめた。

だって、ここからが大変なんだもの。
週末の夕方、ダッシュでＡＴＭへかけこんで
出金する。

考えてる時間はなくて、第二希望の私立高校の
入学準備金が必要だし、それに次の公休日には
制服をすぐに採寸しないと。

発表があると翌日から一斉に入学予定者が市内の
指定店に制服を注文する。

入学校での説明会でも採寸はするけど、そっちに
集中すると入学式に間に合わない可能性がある。
おまけに数百人が一斉に教材やら体操服やらを
注文するからサイズ合わせだけでもやたら時間が
かかる。
なので制服だけはいつも早めに注文する。

あれもこれも考えて、取りあえず５０万円用意したら
大丈夫か。

めったに持たない現金を家の中に置くかと思うと
落ち着かないけど、月曜日になったら休憩時間に
ちょい抜けて振り込みに行こう。
あとは入学説明会用に置いとこ。

で、家に着く。

まっくら。

コマユ、まだ帰ってないのかな。

フツーに質素なばんごはんのつもりでお米をといで
スイッチを入れる。

そうだ。

思いついてパソコンの電源を入れてみる。

今では一部の公立高校はパソコンで合格発表が行われる。
募集要項にヌマッチョ高校もそうだって書いてあったよね。

合格者の番号が並ぶページにたどりついた。

でも。

受検番号って何番だったっけ。

えーと、絶対に忘れんようにって当日声かけて、
えーと、その前に見せてもらったけど、
えーと、なんか中途半端な数字よねって、
レシートだったらおつりが一円玉とかなんとか・・・

１２９０番台だったのは覚えてる。
確か、後半だったような気がするのね。

マウスをスクロールしてクルクルと画面を動かす。

１２９０番・・・って、きた！

・・・ない。

ってか、１２９０番から１２９９番までの受検番号は
たった３つしかない。

ヌマッチョ高校の倍率、１.５倍だったのに
これって３倍じゃん！

コマユの受検番号ってよく覚えていないのに
はっきり覚えてるのは、

「同じ中学校はボクを入れても三人しかおらんのよ。」

「同じクラスのカチョリンも受けたけど、カチョリンは
私立のＡ専願で合格しとるけぇね。ヌマッチョは間違いないって
塾の先生もゆうとるけど。」

つまりですね、同じクラスで出席番号がはやいカチョリンは
コマユの一つ前の受検番号だろう。

でも、カチョリンはコマユよりずっと頭がいいらしいので
私立もコマユのＢ専願（フツークラス）じゃなくて
上級クラスで合格してるそうだしカチョリンとコマユが
合格してたら連番だろう。

・・・でも、ない。

１２９０番台は飛び飛びで３つしかない。

この中のどれかがカチョリンだとしても、じゃコマユは不合格に
間違いない。

メールもない。

番号もない。

うん、うん、わかった。

画面を閉じて、ばんごはんの支度に取り掛った。
コマユ、どこへ行っちゃったのかな。
お風呂もわかしておこうかな。

あ、そうだ、洗濯物も取り込んでおかないと。
ベランダへ出ようとしたら、隅のほうに無造作に投げられたバッグが。

あれ？コマユ一度戻ってるんだ。

バッグの下から出てきた水色のＡ４封筒。

ひっくり返す。

くるり。

『祝　　合格　　ヌマッチョ高校』

ここここ、こーまーゆー？！

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午後２０時になろうかという頃、
やっとコマユが家に帰ってきた。

合格した野球部仲間で４人で遊び呆けて時間を
すっかり忘れていたらしい。

ついでに、メールするのも忘れていたらしい。

「だって、仕事中だったし、今じゃなくてもいいやと思って。」
「先に中学校へ行っとった。」
「で、ヤマゴンとニャオピとハマオと公園に移動して。」
「キャッチボールとかしよった。」

ってか、すごい番狂わせじゃったのね。

「いや、それが、試験がさ、ボクすごいできたんよ。
ほとんど満点じゃないかと思うほどできたけど、今までの
テストでもこんなことなかっけぇ、もしかしたら間違いかも
思って黙ってたんじゃけど。」

「でもさ、カチョリンがすごい難しかったとか、できんかったとか
ゆぅけど、でもカチョリン頭いいし。」

「で、ばんごはんは？」

「サバ？　サバ？　

こういう日に晩ご飯がサバーーー？！」

はい、すみませんね。

ってか、報告くらいしろよ。

あ。５０万出しすぎた。
泥棒入ったらどうしてくれる。

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それから一年たったけど、
何度か行われた定期テストでは

「すっごいできたかも」どころか
「今回はがんばった」という言葉さえ聞かれない。

次回の受験は５０万どころではないな。