ここは高速バスの乗車場です。

乗車時刻が近づき、目的地へ行くバスが
やってきました。

停車すると待っていた乗客は一斉に立ち上がり
一人ずつ入口から乗車していきます。

「はい、どうぞ。」

乗客は運転手さんに乗車券を見せます。
運転手さんは手に持っているのを見たらそのまま
座席に座るように案内します。

いつもだったら、『Ａの２番です』って番号とかも
確認するのに今日の運転手さんはしないんだな。

地元のライブをみるために、次女のアイリが
これから帰省するところ。
たった一日のライブのためにわざわざ高速バスで
自宅へ帰って、ライブの翌日には またまた寮へ戻ります。

定刻を過ぎ、バスはバスターミナルを発車しました。
順調にいけば、４時間後には自宅に帰ってくるはずなのですが。

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さて。

２時間がすぎ、とあるサービスエリアでバスは休憩中。

一人の若い女性が運転手さんにたずねます。

「あの。これって宮崎行きですか？」

「え？？」

さーーーーーーーーーー。（運転手さんの血の気が引く音）

「えーーーーーーーーっ？！　広島行き？！」
「どどど、どうしたらいいんですかっ？」

どうしたらってか、もう下関とっくに過ぎてるし。
ってか、関門海峡渡るところで気がつくでしょ。
ってか、最初に運転手さんが広福ライナーってアナウンスしたでしょ。
ってか、バスにもそう書いてあったし。

バスはサービスエリアで停車したまま。
運転手さんはあちこちに電話をかけて交通手段を確認しています。

結局、タクシーで最寄の駅まで行き新幹線に乗り換えてもらい
そこからまた高速バスに乗り継いでという方法を案内しました。

しかし。

それには随分高額な交通費がかかります。
乗り間違えた本人の不注意だから仕方ないような気がしますが
ここで一人の乗客が立ち上がった。

「みなさん、ほんの少しずつでも気持ちがあれば
助けてあげましょうよ。」

「１００円でも２００円でも気持ちでいいんですよ。」

「運転手さん！　最初に乗車券を確認していればこんな事には
ならなかったのに！」

えー！　あたしだってお金ないのに無理して帰るとこなのに！
ってか、ライブ明日だからまだいいけどこれが今日だったら
完全に遅れてるじゃん！
ってか、もう４０分も停まってるんですけど！
運転手さんも最初乗車券は確認しなかったけどさ、
乗る本人だってフツーわかるでしょ！

アイリ、発車できないバスにちょっとイライラ。
この連休はライブのはしごのためにバイト代をコツコツ
貯めていました。
それが運悪くこのバスに乗り合わせたために帰宅時間が
大幅に遅れるうえに、ギリギリのお小遣いまでカンパに
まわされそうで カナーリのお怒りモードです。

「みなさん、お願いします。」

乗り間違えて困った女性に善意をと訴える一人の女性客は
乗客にカンパの要請をします。

前の方から１００円、２００円とカンパをさしだすのですが、

「えっ？　こんなにいいんですか？」

男性客の一人が一葉さんを一枚出しました。

「ええ、いいですよ。」

えーーーー？
どうしよう。小銭、今あるかなぁ。
でもお札出すほど余裕ないし。

「すみません！　本当にすみません！」
「ごめんなさい！ありがとうございます！　」

宮崎へ行きたかったその女性はもう気が動転しまくりです。

「私はお金もってないです。」
「私も。」

中には断る人もいましたが、そりゃ仕方ないですね。
困っているとはいえ、不注意ですもの。
長い時間待たされた上にカンパまでって言われても
賛成できないのも当然ですわな。

くーーーーーっ！　ちっくしょう！

アイリ、財布に残っていたなけなしの２００円を
泣く泣くカンパしました。

これでライブグッズが２００円足りんで買えんってことになったら
絶対後悔するんじゃろうけど、くーーーーーっ！

バスは、カンパのお金を女性を降ろして
サービスエリアをようやく発車しました。

「じゃ、飛ばしますからね！」

運転手さん、遅れた分を取り戻す勢いでしょうかね。

「でも、安全運転でね。」

そこは、カンパを仕切ったおばちゃんが抑制します。

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アイリがようやく自宅にもどってきたのが午後８時すぎ。

「・・・でも、バスあれからほんっっまに飛ばしてた。」

「こわかったよ。」

ＢＵＭＰのライブを追っかけて行くアイリは
明日の朝にはまた西に向かう高速バスに乗ります。

運転手さん乗車券はちゃんと確認せんとね。