さて。
店内はすでに閉店、通常の業務も終了し
すっかり静まり返っているけどまだ明かりを落とすわけでもなく
メンバーも退勤するわけでもなく。
全員がフロアに揃いましたよ。
中央には、『メンバーの影の親玉』と慕うニシキバラさんです。
「おつかれさまです。
閉店後でいつもならこれで退勤するところなんですが
時間をとっていただいてありがとうございます。」
メンバーの一人一人が、ニシキバラさんの説明を
理解しようと必死でメモをとっています。
初めての経験のメンバーもいます。
そりゃ夜のショップメンバーは学生さんが多いからね、
長くても四年でメンバーは入れ替わる。
朝入りのメンバーにはオープン当時から頑張ってるのも
おりますが夜のメンバーはその点は顔ぶれが変わります。
聞くだけでは理解できなくて不安を隠せないようです。
女子学生、必死にくらいつくとこがかわゆいです。
「大丈夫です。初めての時は誰でもわけがわからなくて
連携もうまく取れなくて当たり前です。でも２回目からは
きちんと判断ができて行動できるようになります。」
「ま、説明だけじゃアレだから、やってみましょっかね。」
「では、１９時のシフトを基本にいったん売り場に待機して下さい。」
「業務以外のフリーの人はそれぞれ自分の担当コーナーにいて下さい。」
ニシキバラさんはモーコハラリーダーには
反抗しますが後輩にはとっても優しいです。
優しいですが、仕事に妥協はありません。
今日の任務も大事な大事な訓練であります。
ニシキバラさんは夜の勤務シフトに入ることはないですが
わざわざ夕方からこのためにやってきたのです。
ん？ 訓練？
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん・・・・
フロアにけたたましいサイレンが響きます。
"火事です。火事です。係員の指示に従ってください。"
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん・・・・
サイレンの音はでかいけど、火災を知らせる男性の声は
やたらと落ち着いてる上に声のトーンがなんだか上から目線じゃないかね。
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん・・・・
"火事です。火事です。係員の指示に従ってください。"
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん・・・・
"火事です。火事です。係員の指示に従ってください。"
ふぁんふぁんふぁんふぁんふぁん・・・・
・・・あの。サイレンとアナウンスはさっきからひっきりなしですが
店内放送がない。
多分この時間帯の配置じゃアイ坊とミポリーの二人が
火元を確認するはずだけど。
「出口はこちらでぇーーす！！」
火元の店内放送の前にニシキバラさんが
係員のお手本ともいえるような、サイレンをかきけす声で
店内を走る。
「出口はこちらでぇーーす。」
「出口はこちらでぇーーす。」
ニシキバラさんに続いて、メンバーも次々と避難経路を
お客さまに知らせるべく、非常口をさしながら走る。
「おっお客さまに連絡いたします。ただいま２階ＤＩＹコーナーで
火災が発生しました。落ち着いて係員の指示に従ってください。」
火元は２階です。
ということは、１階にいるアタシはもう絶対に２階にあがっては
いけない。２階から降りてくるお客さまをすみやかに非常口まで
誘導しながら各コーナーの死角をまわることになる。
手に持った消火器はその場に置いて狭い通路やら角っこ、
バックルームやトイレを確認して近い非常口へ向けて大声を出す。
「お客さまいらっしゃいませんかぁー！」
「出口はこちらでぇーーーす！」
おっ？
コーナーごとに通路をみているとお客さまを発見です。
いえね、閉店してるからお客さまにみたてた人形の絵です。
ニシキバラさんの力作です。
うずくまったお客さまをかかえてさらに売り場を走り
裏口へまわった。
・・・あれ。
火災を確認したアイ坊とミポリー、館内放送をして
受信機の操作をしたまではよかったが受話器をもって
ウロウロオロオロしている。
えーーーと。
「消防署への通報はどうやってすればいいんでしょう～～。（泣）」
あああ。固定電話と受信機がごちゃごちゃになってるんだ。
固定電話は火災の時は機能が変わるけど、通話は大丈夫だよ。
携帯で通報したら近いとこじゃなくていったん市内の大きい消防局に
つながるから固定電話で近いとこにつながったほうが場所や状況を
説明しやすいんだよ。
「あ、あとシフト表も持ってってね。」
「あ～、そうだった～～～！」
シフト表持ち出しは火災の起きた時間帯に誰が出勤していたか
逃げ遅れたメンバーはいないかの確認に必要です。
ニシキバラさん、親玉だけあってとても落ち着いてます。
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初期消火訓練後、再びメンバーが集まり
ニシキバラさんを囲みました。
「え、遅くまで残ってくださってありがとうございました。」
「訓練には正解のマニュアルはありません。」
「いつどこで火災が発生したかによって避難経路や非常口も
何通りにも変わってきます。」
「その時は、お客さまの誘導もいつものようなご案内でなく
落ち着いて毅然と指示をくだすと言う方が、お客さまも落ち着きます。」
なるほど、それでさっき火災を知らせるアナウンスも
あんなにクールなのね。
「いざというときのためにイメージトレーニングをしながら
行動してゆきましょう。」
「必要なのは、声と意思の疎通です。」
「連携が取れれば２倍、３倍の力になります。」
「パターンはいろいろあると思いますが、身の安全の確保を
しながら行動してゆきましょう。」
曜日や時間帯による火災発生のシュミレーションを
イメージしながらの防火訓練は何度も重ねて行うのが必要と
ニシキバラさんは言います。
お客さまが安全にお買いものができるようにと
日々防火防犯につとめるニシキバラさんに、ここで
メンバーから賞賛のはくしゅが贈られました。
ぱちぱちぱちぱち・・・（一同はくすー）
「あ、ところで店内から救出されたお客さまを確認しましょうかね。」
ニシキバラさん、自作のお客さまを一体ずつ確認しながら
「えーと、あれ。足りない。」
ファイルの「動けなくてうずくまったお客さまリスト」を
指で追ってみています。
「２階ＤＩＹと１階玩具のお客さま、逃げ遅れちゃったみたいですね。」
「あーあ。火元のお客さま放置しちゃいましたね。」
おーまいがっ。
（玩具はアタシだよ）
「大丈夫です。多分その時は動けなくても音がしたり
悲鳴あげたりしますから。」
ニシキバラさん ありがと。（くすん）
