遺失物法が改正されてもうすぐ一年になる。

もともと、営業中の店内では忘れ物はあとを絶たず
問い合わせがなければ定期的に処理をしなければ
お客さまの私物でバックルームはあふれてしまう。

改正後も、何度忘れ物が発生しただろうか。

法律が改正されてからは、確認が必要になった。
すべての落し物に報労金や所有権が発生するわけではないけど
落し物や忘れ物の詳細を記録しておかねばならない。

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「財布を拾いました。」

あーあ。
できれば拾いたくないんです。
見てなかったことにしたいんです。
でも、諭吉さんが何人か揃わないと買えそうもないお財布を
拾ってしまいました。

事務所に保管する前に、財布の中を確認して
警察に提出する書類に細かく記入するのです。

「えーと、ポイント券に会員券、クレジットカードは
ないですね。」

しかし、もうすぐ閉店間近です。
夜の勤務は必要な人数しかシフトに入りません。

警察に届ける余裕はないので、複数のメンバーできっちりと
確認したあとは金庫に保管して翌朝のメンバーに引き継ぐのです。

さて。

翌朝。

最強メンバーのニシキバラさんがお財布を持って
おまわりさんを訪ねていったと思ったらプンプンで帰ってきました。

「ありゃあね！！　いきなり指紋採取ですよ！！」

「なんと被害届が出されてたんよ！！」

「あたしゃ言いましたよ！」

「『まるで犯人扱いですね？！』ってね！」

「言いたいことはさんざん言って帰ってきた！！」

さらに、ニシキバラさんのその後の説明にメンバーはぶったまげるのです。

「お財布を触ったメンバー、並びに触った可能性が少しでも
あるメンバーは、警察に行って指紋を取らせてだって！」

「任意だけど協力してって。」

「そんな今お店抜けたら営業できないじゃん。」

「任意なんじゃないんかね？」

「任意なら来てもらうわけにいかんのんかね。」

「勝手に店抜けるわけにはいかんからモーコハラ リーダーに
相談してみないと。」

そりゃ相談したってさ、お店ほっぽらかして
任意ですが指紋とりにいかせてくれったって言われても。
モーコハラ リーダーに一応聞いてみたけど当然ＮＧですよ。

結局ですね、おまわりさんが指紋採取セット持参でご来店。
カワナミさんをはじめ、財布に触れたメンバー一人ずつ
丁寧に指紋を採取いたしますた。

「これで全員かいね？？」

メンバーは夕べの確認作業を思い出しました。

うーん？　ほかに誰かいたような？

・・・そういえば。

「ねーねー、診察券でもあれば落とした人が
わかるのにねー、なんか入れてないんかね？」

そう言いながら脇から手を伸ばそうとした人物がいました。

「あっ！」

「キヨサカさんがいた！！」

公休日でお昼寝中だったキヨサカメィ子さんを
メンバーはすっかり忘れていますた。

結局、脇から手を伸ばそうとしたのか
手を伸ばして触れたのか、手を伸ばしただけで終わったのか
記憶があいまいなままのメィ子さんだけのために
翌朝も指紋採取に出直すことになりますた。

何にも知らないメィ子さんは、出勤していきさつを知らされ
若いおまわりさんに手をニギニギされて喜ぶのですた。

ニギニギされて指紋をべたべたされたあとの
指やら手のひらは、一日じゅう油粘土の臭いで
気持ち悪かったのですた。

その日、退勤前の引継事項では次のような申し送りが
ありますた。

"貴重品を拾うときは軍手をはめてから拾うこと"

ごもっともと思いますた。