今日はコマユの引退がかかった大事な試合の日。
野球部に入部するつもりで入学したヌマッチョ高校だったけど、
合格発表の日に気が変わってなぜかバレー部に入るのを決めてから
もう二年あまり。
こないだの市大会予選でギリギリですべりこんでの県大会。
今日はトーナメント戦だから負けたら終わりで引退が決まる。
結末はまた今度にして(すまない)
初めて観戦したあとの帰り、買い物に寄ったお店でのこと。
「いらっしゃいませ~、ようこそお越し下さいました~。」
ん? なんか聞いたことあるおばちゃんの声だが。
「雨の中ようこそいらっしゃいました~。」
店員さんとすれ違いざまに こう言われてハタと考える。
・・・思い出した! あのときのスーパー試食販売のおばちゃんだ!
こないだとお店は違うけど、ここでも会えるんだ!
ちょうど従業員用のバックヤードにひっこむところだったらしく
すれ違ったその瞬間だったけどわざわざ立ち止まってごあいさつをしてくれた。
早足ですれ違いざまに「いらっしゃいませ」なんていうのは当たり前のことだけど
(「ダ」ではこうするし)わざわざ立ち止まったり、「いらっしゃいませ」以外の
言葉掛けをするのは滅多にないからね、ちょっと驚いたし
この声、この言葉、もしかしたらと思ったら
やっぱりこないだのスーパー試食販売のおばちゃんに間違いない。
そのまま扉の向こうにひっこんだかと思ったら
すぐにまた出てきた。
そして、やっぱりすれ違う人ひとりずつにごあいさつをしながら
定位置に戻って行った。
「口当たりまろやかでおいしいおいしいデニッシュブレッドでございます。」
「ただいまトースト中でございます。すぐに焼きあがります。」
「今日は本当にご来店ありがとうございます。」
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。」
やっぱりこないだと同じように、手も動かしながら
口も止まらないで、通りすがりの客に声をかけている。
ぽわ~~~~ん。
ほら、デニッシュブレッドが焼きあがった。
トースターから取り出したから、香りがあたりに充満してきたよ。
あぁ、おいしそう。
カットして軽くトーストしたブレッドを楊枝にひとつずつさして
お皿にうつしたおばちゃん、そのお皿を目の前を通る客ひとりひとりに
さしだしてすすめる。
「ほんのり甘いデニッシュブレッドはいかがでしょうか。」
「ただいま焼きたてのデニッシュブレッドでございます。」
「お子様のおやつに、またお茶うけにも大変よろしゅうございます。」
「奥様、どうぞ、お味見だけでも結構でございます。」
・・・あ、あたし、デニッシュブレッドすっごい好きなんだけど。
「そちらの奥さまもいかがでしょうか。ぜひ、ぜひ、お召し上がりくださいませ。」
あ、いいんですか?(喜)
謙虚で押しつけがましくなくて、そのうえ途切れないおばちゃんのトークを
ちょっと「ダ」の声出しにも使えんかなぁと携帯メモに入れてたとこを
見られちゃった(汗)
たぶんフツーにメール打ってる人って思われたんだろう。
目が合ったと同時にすっごい好きなデニッシュブレッドをすすめられてしまった。
「あ、ど、ども、いただきます。」
ぱく。(食べた)
・・・焼きたて、う、うめぇな。
ど、どうしよう。一本欲しいけど三人じゃ多いんよね。
「いらしゃいませ、いらっしゃいませ。」
ん~~~、、このおばちゃんなら買ってもいいけど。
ん~~~、他のときに買うくらいなら今このおばちゃんから買った方が
喜ばれるんじゃない?
ん~~~、明日からアイリのとこに行くし、全部食べきれんよ。
ん~~~、ほうじゃね、でも多かったら冷凍しとけばいいんじゃない?
ん~~~。
ん~~~。
ん~~~。
(考え中)
決めた! 買う!
スーパー試食販売のおばちゃんの横にずらっと並んだ
デニッシュブレッドを一本持って買い物かごに入れた。
とたんに!
「んまぁーーっ!ありがとうございます。」
「せめてせめて、もう一口だけでもお召し上がりください!」
「ほんっっっとうにありがとうございます!」
「ここで言うのも大変恐縮ではありますが、定価300円のところを
248円のサービス価格でございます。」
「どうぞお気をつけてお帰りくださいませ。」
「またお越しくださいませ。」
試食販売のおばちゃんやおねぇさんなんて、今まで会ったことある人に
二回目とか三回目とか会ったのかもしれないけど全然覚えてない。
その程度だから、おばちゃんやおねぇさんが気に入って商品を買ったことはない。
買ったときはたまたまその商品が欲しかっただけのこと。
でも、また次に出会ったら、つい買っちゃうかもしれない。
そんな今日の試食販売のおばちゃんにはスーパーからウルトラ販売員の称号を与えたい。
うん、心意気だけは見習おう。