コマユは困っていた。

受験まであと一か月をきったが、相変わらずのマイペースであった。

ラストスパートはふんばりどころだよ。
よし、ここで参考書と問題集をもう一冊ずつ買って
弱点克服だ！

あんまりアテにならないやる気がしぼんでこないうちに
とりあえず参考書と問題集をゲットした。

じゃ、がんばってくれたまえ。

ところが。

コマユは困っていた。

なんなんだ。　安い買い物じゃないんだから
有効に使ってくれたまえ。

「・・・間違えました。」

・・・なんですと？

「参考書を間違えました。」

どゆこと？？？

「ボクがほしいのはこんな難しい本じゃなかったんじゃけど。」

はぁ？！

では、コマユが買った本をみてみよう。

「ね？国公立も難関私大もボクは受けませんから。」

ね？　・・・ってアンタ！！（怒怒怒）

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とゆことで、せっかく買った参考書だけど
コマユには使えない。

「同じシリーズなんじゃけど、論述・記述編じゃなくて
バイブル編ゆうのがあるんよ。」

「そっちを買うつもりじゃったんじゃけど
交換してくれるかのう。」

レシート持ってるし、折り目もつけてないし、汚してもない。
昨日買ったときのまんまだから大丈夫だよ。
そのまま持っていきゃいいよ。

「・・・レジでいやな顔されたらどうしよう。」

「本当にすんなり交換してくれる？」

「もしも、バイブル編がなかったらどしたらいいんじゃろう。」

コマユは困っていた。

えっとですね、特定商取引法ではですね、店舗販売のばあいは
通販と違ってクーリングオフはございませんですね。
ようするにですね、消費者は自分で商品を手にとって選び、
購入するかどうかを考慮する時間を自由に与えられて判断した上で
レジで売買契約をむすんで、レシートという税法上立派な証拠となる
物件を商品とともにお持ち帰りですんで、一方的に返品とか交換は
できないんですね。ざまあみろ。

「えーーーっ！！　じゃあダメじゃん！」

そうゆうわけでもないんですね。
なぜなら、ほとんどの小売店では
消費者の一方的な理由であっても、レシートがあれば
返品交換をおこなってるので、
「うちのお店ではできません。」なんていうとクレームものですわ。
パートタイマーが法律守って時給があがるわけじゃなし、
クレームになって上司からお叱りをうけるくらいなら
勝手な判断で返品交換お断りなんて店舗はそうはないでしょうよ。

ま、特定商取引法では返品交換の義務なしとはなってても
ほとんどの店では返品交換は受けることにしていて、
そのマニュアルがあるってことですよ。

ま、お店の厚意で返品交換には応じてくれているってことを
頭にいれてレジに持っていけばいいってことよ。

「あ～～～、でも断られても文句は言えんってことよね。」

「・・・ダメって言われたらどうしよう。」

きーーーーーーーーっ！　どこまでいくじなしなんじゃい！！

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コマユは困っていた。

頑固ないくじなしのコマユに変わり、
なぜかあたしが昨日買ったばっかりの「出口のシステム現代文・論述記述編」と
レシートを持ってレジに並んでいた。

が。

ちょうど、あたしのひと組前の親子の順番がやってきたとき
対応をしたレジ係のおねぃさんが、

「申し訳ありません、少しお時間がかかります。
しばらくこちらでお待ちください。」

そう声をかけて、腕を伸ばしカウンターの左側でお待ちくださいみたいな
しぐさをした。

親子が移動したら、あたしが先頭なんだけど。

でも、おねぃさんそのまんまひっこんじゃったので
カウンターにはあたしが一人取り残された。

マックではよくある風景じゃね。
マックのおねぃさんは「申し訳ありません、少々おまちください。」って
次の順番の組にも声をかけるよね。

忙しいけど、できればそのほうが丁寧じゃね。

とはいえ、あたしだけではない。
あたしの後ろにもすでに行列はできている。

いえね、あたしゃ交換だけですし、
あたしだって自分のレジ打ちは自慢じゃないが遅いですもんね、
まぁお互い様ということで大丈夫ですよ。（ちょっと違うか）

ほんの３０秒くらいですかね、一分はなかったな、
別のおねぃさんがカウンターへすっ飛んできた。

「申し訳ございません！大変お待たせいたしました。」

いえいえ、いいんですよ。
その対応、立派じゃあないですか。

「あの、申し訳ありませんが・・・」

「これ、昨日買ったばかりなんですが、」

「間違えて買ったんです。あ、レシートはこれです。」

「こっちのバイブル編の方を買うつもりだったんです。」

「お手数ですが、交換はしてもらえますか？」

用件をつたえた。

レジのおねぃさん、はいはいと首をたてに振りながら
論述記述編とバイブル編を手にとってＪＡＮコードを確認した。

「はい、かしこまりました。大丈夫です。」

「申し訳ございませんが、レシートはこちらにお返しいただいてもよろしいでしょうか。」

「ありがとうございます。」

「お買いもの袋をご用意しましょうか？」

「よろしいですか？ありがとうございます。」

「大変お待たせして申し訳ございませんでした。」

「どうもありがとうございました。」

いえいえ、こちらこそありがとうございました。

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交換のときはお金をかえしてもらうわけじゃないので
レシートは返せないって人もいるんじゃけどね。

会社の備品を買ったけど、間違えたから交換してくださいなんて人は
レシート返すわけにはいかんじゃろう。

でもうちはレシートを返したもんだから、一緒に買ったもう一冊の問題集も
今度は交換はきかんぞ。

本棚からレジの様子を見ていたコマユに
「出口のシステム現代文バイブル編」を
ほいと渡した。

さぁ、今日のレジのやりとりをしっかり覚えるがよい。
確かにね、お客様あっての地域のお店であるが
反対に地域のお店を大事にしなけりゃ困ることはいっぱいあるんだから。

今日はあたしが代わりにやったけど
社会にでたときのレジ研修だと思ってしっかり覚えるがよい。

「あざーーーーす。」

はぁ？　どうよ？
お互い「ありがとう」と「申し訳ありません」で
こんなに気持ちよく交換ができるのだ。
あざーーーーすとはなんだ。あざーーーーすとは。

次からはあたしを呼ぶときは

「ボクのだいすきなかぁたん」

と呼ばせるからな。