フレッシャーズの味方といえば、
ハンサムスーツ&ニ○リ&「ダ」であろう。
春休みになると、毎年いかにもといった親子がご来店、
生活雑貨やら消耗品やらをごっそりとお買い上げである。
そんなことが毎日くりかえされる。
初登場では、まだ小学生だった末っ子のコマユが
もう大学生である。
県外の大学に進学するので
我が家もハンサムスーツを購入し、
ニ○リでカーテンやらテーブルやら揃え、
「ダ」では目をつけていたアイテムをゲットである。
よる。
仕事を終えて、「ダ」の店内でコマユと待ち合わせ。
一緒に店内を回った方が、早く欲しいものを見つけられるし、
コマユがないと思っていた商品が実はあったりする。
それに、コマユが必要と思っていても実はそうでもないものもある。
これはチイヤやアイリが暮らしてみて初めて気がついたりする。
そんなんで、二人で買い物をしたほうが、断然効率がよいのである。
「あら! おめでとございます!」
ヤジマさんである。
暴走&カツアゲのヤジマさんである。
いや、実はヤジマさんにはチイヤとアイリと同い年の娘がいる。
なので本当はいいおかあさんである。
初対面のコマユとヤジマさんだけど、
ご近所のおばちゃんのようにコマユに話しかける。
「あ、ありがとうございます。」
コマユ、ちょっと照れている。
「行きんちゃんな!」
「へ?」
ヤジマさん、初対面のコマユですが
本当に前から知ってる近所の子のように語りかける。
「寂しいけぇ、一人くらいは残らんといけんよ!」
「ね? 行きんちゃんな!」
「ここにおりんちゃい!」
「・・・・・・。」
コマユ、目がテン。
「ごはんちゃんと食べるんよ。」
「しっかり頑張ってね。」
「悪い女の子にひっかかったらだめよ!」
ヤジマさん、しっかりコマユに釘をさしてくれた。
ありがとう。
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「あ、息子さん?」
ナベチンである。
ナベチンはミルハー姉と同い年だけど
もう二人の孫がいる。
買い物かごの中身を見て、自宅を離れるのだと
すぐに察したようだ。
「まー、寂しくなるね。」
「ひとりぐらし、気をつけてね。」
「食事には気をつけるんよ。」
「ちゃんと食べんといけんよ。」
「はぁ。」
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「なんか、母親がいっぱいみたいな気分じゃね。」
そうじゃね。
夜のメンバーは子供がもう大きいからね。
やっぱり大学生くらいの子が一人で暮らすのは
声をかけたくなるんよ。
なんか、あたしの言いたかったこと
全部代わりに言ってくれたよ。
買い物かごがいっぱいになって
支払いをすませたあと
ていねいに割れ物を新聞紙に包んで袋詰めした。
車に乗って家に帰ろうと
キーに手をかけたけど、ヤジマさんやナベチンのあたたかい言葉を
思い出して、ちょっと自分でも考えてコマユに聞いてみた。
「ねぇ、コマユ?」
「あのね、まじめに聞くんじゃけどね。」
「うちの子に生まれてきて、コマユはよかったんかなぁ。」
エンジンがかかる前の車の中。
運転席のあたしと、斜め後ろのシートのコマユと。
ちょっとだけ沈黙があった。
「・・・うん。ほうじゃねぇ。」
「よそんちと比べたらねぇ。」
「うちはいいなぁって思うよ。」
「みんなゆうもん。」
「『親、よくやるね。』って。」
「友達はきびしいよ。」
「県外の大学は絶対だめって最初から言われとるし。」
「じゃけぇ、がんばるよ!!」
幼稚園の頃からPTAや子供会の役員で連れまわして
あんまり日曜日に家族で遊ぶことはなかった。
小学校へあがった頃からはアイリのバレーの試合でこれまた
引率で退屈な週末ばかり。
必然的にコマユもバレーをするようになって
本当に好きだったのかどうかわからなかったけど
家族でレジャーに出かける機会はなくても
バレーをやめたいということはなかった。
結局大学でも続けるほどバレーを好きになってくれて
少しはよかったのかな。
キャンプには行けなかったし、
旅行もホントに数えるほどしかしてない。
好きでうちの子に生まれたわけじゃなかったのに、
それでもうちはいいなぁって思ってくれて
素直に口にしてくれて本当にうれしい。
「じゃ、あたしもあと4年がんばって働くよ!!」
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一晩あけて、
荷物よりも一足先にコマユは行ってしまった。
バスターミナルまで送って
引越し先のマンションにはついて行かなかった。
入学式も行かない。
さみしくなるねと色んな人から言われたけど、
さみしいのか、悲しいのか、まだわからない。
でも、うちの子でよかったと思ってくれていた気持ちを知って
本当にしあわせ。
これが、今の正直な気持ち。
あたしこそ、ちゃんと言わなきゃいけなかった。
うちの子に生まれてきてくれてありがとう。
今度戻ってきたら、照れずにちゃんと言おう。