ちょっと季節外れの話になる。
 

小学校夏休みの球技大会といえば
ソフトボール＆フットベースボールである。

こちらの学区は練習だけなら子供会に加入していれば
自由に参加できるが、試合に出場できるのは三年生からである。

チイヤが三年生になる前の春休み
球技大会参加申し込みの回覧板がまわってきた。

うちは週末も祝日もカズヲさんはお仕事。
なので、家でたいくつするよりも外で友達と
一緒にあそびたい。

「チイヤ、こんなんあるんだって。」
「どうする？申し込んでみる？」

「んー、知ってる人おるかねぇ。」

誰が参加するかわからないけど、
学年が近い近所の子供たちばかりだから大丈夫よ。
でも、気になるみたい。

「・・・やってみたいなぁ。参加してみる。」

気楽にその場で決めて、回覧板を次にまわしたのだが。

数日後、子供会の役員さんがうちにきて
なんと同じブロック内で三年生から六年生までの参加者が
チイヤたった一人だと聞かされた。

えーーーーーーーーーっ！！
あの子もこの子も出ないのかい！！

同じブロックには子供会の加入者が６０人はいただろう。
なのに、なのに、参加者一人とは！

役員さんが言われるには、
別の子供会のブロックに入れてもらって
そのチームで参加させてもらうことになるのだそう。
子供会行事だけど顔ぶれは初めてだらけで
しかもほとんどが上級生で、
うーん、大丈夫かしら。

なんとかなるさのアタシだけど、この時はさすがに
チイヤを無理矢理参加させる結果になるのではと
最初に声をかけたことを少し後悔した。

そして、初めての練習日。

心配で付き添ったあたしと、ちょっと心細そうなチイヤに
監督さんが声をかけてくれた。

「三年生で一人なのに、よう参加してくれちゃったね。」
「一緒に試合まで頑張ろうね。」
「これから名前を呼ぶ時は名字じゃなくて、下の名前で呼ぶけぇね。」

定年を迎えて間もないらしいと聞いた監督さんは
子供好きらしい。在職中もずっとボランティアで監督をつとめていたそうな。

ボールの蹴り方や受け止め方、細かいルールも丁寧に指導してくださって
チイヤはフットベースボールが楽しくなったようだった。

まわりの役員さんの心遣いも温かくて、
一人違う子供会から加入したチイヤが孤立しないように気を配ってくださった。

そして、三年生でありながら監督のはからいで
一試合だけ参加させてもらい、大きな自信につながったのである。

それだけでなく、学区の大会で久しぶりに優勝してしまったので
区大会進出という嬉しい経験までさせてもらった。

さぁ、それからまた毎週練習はつづく。
一学期の週末のほとんどをフットの練習に費やし
７月最後の土曜日、明日はいよいよ試合という日、
監督さんから声をかけられた。

「いつも早く来て、ボールを遠くに蹴る練習をしとったね。」
「チイヤ、よう頑張ったねぇ。」
「おかあさんも、小さい妹さんも弟さんもおってのに
よく毎週練習につきあってくださいました。」
「来年は同じチームになるかわからんけど、続けんさいよ。」

チイヤは同じチームの子とは小学校をはさんで反対側に住んでいる。
あとから一人でやってきては参加しにくいので
早めにやってきてボール練習をしていたのを監督さんは知っていた。
チイヤがボールを蹴って、アイリが球拾いをしていたのを知っていた。

さぁ、いよいよ区大会の朝です。
これで最後の試合です。
勝っても負けてもこれで最後です。

さぁ！　チイヤ夏の思い出を飾るがよい！

起きろーーーーー♪

「・・・・・頭いたい。」

チイヤのおでこにあてた手が、

熱ッッッ！！

点きっぱなしの蛍光灯かと思ったわ

３８度を超えとりました。

最後の大事な場面、プレッシャーで体調を崩すのは
すでにこの頃からであった。

　　　　チイヤ、リタイア。

長くなるので監督の話は次につづく。