テーマ:愛しき人へ(903)
カテゴリ:秘密の傷跡
彼は、逞しく、優しかった。
背はアタクシよりちょっと高くて、筋肉質で、いつもすっきりとした格好をしていた。 実践的で、もの静かなのにひょうきんで、人気者だった。 動作も思考も決然としていた。 相談されると、まっすぐ相手の眼を見つめて、黙って聞いてくれた。そして問題の新しい見方を、結論に近づく道を、一緒に考えてくれた。 仲間の集まりなどでは、前に進んで指揮をとることはなかったけれど、自然に皆が彼の意見を重んじて、グループ内からリードをいつのまにか譲られていた。 動物好きで、アタクシ達の小さな妹や他の子供達は彼を選り抜いてじゃれついていた。 不思議な磁性を持つ、ごく自然に人を引き付ける明るい性格で、思わせぶりや秘密めいた素振りはしなかった。 そのさっぱりとした、素直な、清らかな心を、アタクシはいつのまにか愛していた。 愚かなアタクシを、彼は命懸けで愛してくれた。 そして、彼は、死んでしまった。 そして、アタクシは、亡き彼を、毎日想う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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