テーマ:愛しき人へ(903)
カテゴリ:秘密の傷跡
彼は、出会った時からアタクシをじっと見つめてくれていた。
九つの時、異国での武芸の試合後、遊び場へ向かう途中、気がついたらずっと年上の、十二才の彼がアタクシ達の後をつけてきていた。 無視して遊んでいると、近くまで来て黙ってアタクシだけを見つめていた。 アタクシはそれに気付かない。気付いたのは、仲間達。 ジャジャ馬なアタクシは「なんなのよっ」とばかり突っかかった。彼は、静かに、「君に話しがある」、そう言った。 アタクシは周りの仲間にひやかされて、恥ずかしくて、きまり悪くて、さらにとんがった。 「知らないわよっ、ついてこないでっ!」と冷たく拒否した。 それでもついて来る。アタクシだけを見つめて。 仲間にもっとひやかされる。仲間もおっかなびっくりだ。アタクシ達が小学四年生なら、相手は中一なのだから。ほとんどオジサンだ。 でもアタクシは、変な時に勇気が湧く。 「こんどついて来たらけっとばすからねっ!」と睨みつけても、彼は少し微笑んだだけだった。そして、まだついて来る。 引き下がれない。これがアタクシの泣き所。 「ほんとにけっとばすからねっ!」とまた睨んでも、彼はまた微笑むだけ。素直に好感を露にしてくれてもアタクシはとまどうだけ。 「ねえ、」と切り出した彼のむこうずねを力任せに、思いっきり蹴った。これは、弁慶の泣き所。彼はびっくりしてうずくまる。 アタクシ達はきびすをかえして全速力で逃げる。 彼がアタクシを眼に止めたのは、その数時間前。 でもこれが、幼いアタクシの彼との衝撃的な出会い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.08.12 16:38:59
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