カテゴリ:秘密の傷跡
命を賭けて愛してくれた、今は亡き彼。
その都市で一番高いビルの70階から咲きただれる花火を見下ろした、半生前の輝く夜。彼の限りなく優しい御両親と、愛くるしいほど可愛い妹と、並んでため息をつきながら見とれた花火。 それまでの経験では花火は仰ぐように「見上げる」ものであり、その70階から遥か下に咲く不可思議で華やかな花火に最初は目眩がしそうで窓の枠に手をあてた。花火のさらに下に広がる町の灯りの絨毯。その都市は入り江と湖にはさまれ、その高層ビルは両方の水面から上がる花火を見下ろせるところにあった。 嬉しくて、幸せで、もう次の日故郷へ帰らなければならないと思うと切なくて、涙が溜まってしまって困った。だれにも気がつかれないようにそっと、こぼれる前に涙を拭いた。そんなアタクシの手を握ってくれていた青年だった彼。 花火はいつまでもいつまでも続いていた。 そのままいつまでもいつまでも続いていればよかったのに。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.07.06 19:32:18
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