父は、長男だったので、その小さな会社を継ぐはずだったが、母と幼いアタクシ達をつれてコチラに移住してきてしまった。随分悩んだものと思う。
罪悪感もあったのだろう。
祖父が毎年遊びに来ると、何から何まで尽くした。釣りバカの祖父に尽くした、ということは夏中、コチラの大自然の湖や川や海に釣りにつれて回った。アタクシ達も習い事が休みの時などよくつきあわされた。
父は昔から秀才が結晶した様なカタブツな性格で、まず何事も勉強してかかる癖がある。釣りにしてもそうだ。片っ端から本を読んだり、まず理論から調べ上げる。確か「釣りバカ日誌」とかいうマンガを揃えてみたりもしていた。こういう時にはこのリールでこのルアー、いや、こちらの餌、この魚は水面に人陰が映ったらダメ、この魚の合わせ方はどうこう、などと呆れるほど詳しい。現場につくと、色々分かっているような事を言い並べる。
だが、
釣れない。運が悪いのか、感が鈍いのか、その手の香りが道具についてダメなのか、とにかく理論上パーフェクトな道具と餌でパーフェクトなキャスティングでパーフェクトなポイントに入れても
絶対釣れない。
祖父はそんな父を無言で横眼でチラッと見ながら、さりげなく次々と釣る。アタクシ達子供もでたらめに釣ってみればガンガン釣れる所ばかりだったのだから、父が釣れない、というのはよっぽど何かが狂っている様子だが、それが何なのか分からない。