カテゴリ:旅先
[画像・渡し船からの優しい夕焼け] 渡し船の中で、珍しく窓際の席が開いていた。しめしめ。 席についた後、気がつくと波のうねりを眺めながら、睡眠術に掛かった様にボーーーーッとしている。曇っているので、波が鉛色に見えたり、石炭色に見えたり、迫力がある。 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ という古い船の振動が、何かと心地いい。 残念ながら、いつまでもこうしてはいられない。鞄から書類を取り出そうとゴソゴソしていた時、すぐむかいからその叫び声があがった。 「...ぅぅぅうおぉおおぉううぅ~~~~おぉ~~んんんっっ」 ひぇ?? いきなりだったので、ちょっとびっくり。 むかいの車椅子の男性が身をよじり、首を振りながら呻いている。 「ぐぉおおぉうぅぅぅんんにぃぃ~~ぐぅ~~ええええええええええっっ!」 付き添いらしい人と目が合ったので、思わずにっこりする。 けれど、彼女はすまなそうな顔をしている。 「ごめんなさいね。うるさいでしょう。」 彼女は、この男性のお姉様なのだろうか。よく見ると目が疲れている。 そういえば、まわりの乗客が露骨に迷惑そうな顔をしている。むっ。 なので普段よりちょっと大きめの声ではっきりと答えた。 いいえ、とんでもありません、最初はちょっとびっくりしちゃいましたけど、ぜ~んぜん気になりませんよ♪ 「そう言ってくれてありがとう。ご迷惑だったら遠慮なく言って下さいね。」 その間も男性は何か楽しげに声を出している。 「うぅいいいぃ~~~あぁんんっあっあっがぁ~」 楽しそうなので、また思わずにっこりしてしまった。なんだか心が和む。付き添いの女性はアタクシと同い年だろうか。彼の声がだんだん大きくなると、彼女は彼の手をそっとにぎり、「弟」の耳に何か優しくささやいている。 「弟」の人は幸せだなぁ。初対面では表情が読み取りにくいけれど、なんとなく幸せが伝わってくる。 迫力たっぷりの荒波が窓の外で飛沫をあげているのに、ペンを握って書類と睨めっこしている自分が、どこかむなしくさえ思える。 随分してふと顔をあげると、付き添いの女性がこころなしかソワソワキョロキョロしている。 もしかして...? あの~、しばらくアタクシ達二人で大丈夫ですよ。ねぇ? 「え?あ?ありがとう~!お手洗いに行きたくなっちゃって。本当にいいかしら?」 もっちろんいいですよ、アタクシでよろしければ。何か気をつけておく事、おありかしら? 「いいえ、なんだか今日は機嫌がいいんです。本当に助かります、船内のお手洗いって、ちょっと一緒に連れて行けなくて。マイケル、このキレイなお姉さんが一緒にいてくれるから、待っててね。」 ...と彼女は席を立った。 「がぁううぅぅ~~~でぇ~~~ああああ!」 そうですねぇ、お姉様?なのかしら?行っちゃったけど、すぐ帰っていらっしゃいますよ、大丈夫。ね? 「ぐばぁあううぅ~~いぃじゅじゅう~~んんん!」 うふふ、そうですね、カモメがあんなに何羽も。アタクシ達も飛べたらいいのに、ね。 「ぶぶぶぶぶばぁあああああああああああああああ!!!!!」 ん? 声が大きくなってきましたけれど、お隣に座った方がいい? ...と言う訳で、今度は隣に座り、しばらく会話をしていた。彼の「姉」はなかなか帰ってこなかったけれど、きっとあの狭い船内洗面所にいつもの様に行列ができているのだろう。お気の毒に。 まただんだん興奮してきているのが判る。きっと見ず知らずのアタクシでは心細いのだろう。無理もない。 不自由な手でしきりに招くしぐさをしていたので、「姉」がしていた様に、そっと握ってみた。ぅわ。よだれでビチョビチョ。うふふ、ま、いいか。しっかり握ると、また落ち着いた様子。ふむふむ。 若い男性の手をいきなり握ってしまっていいのかしら♪ 「マイケル」って、いいお名前ですね。ねぇ、「マイケル」は大天使様のお名前ですよね、意味は何だったでしょう? えっと、「神々しい」、「神のごとく」だったと思いますが、ご存知? たしかドラゴンを退治するマイケル大天使、素敵じゃないですか? ...彼女はまだ帰ってこない。う~ん。このまま無断で甲板をお散歩って訳にも行かないし... ええい、歌でも歌ってしまおう。 そっとそっと、子守唄を歌ってみた。 ささやく様に。 よくオイを抱いて歌う「吸血鬼のラブソング」ではなく、ちょっとマトモな歌。 コチラで聞けます・「calling all angels」にクリック。 calling all angels calling all angels walk me through this one don't leave me alone calling all angels calling all angels we're cryin' and we're hurtin' and we're not sure why and every day you gaze upon the sunset with such love and intensity it's almost... it's almost as if if you could only crack the code then you'd finally understand what this all means but if you could... do you think you would trade in all the pain and suffering? ah, but then you'd miss the beauty of the light upon this earth and the sweetness of the leaving calling all angels calling all angels walk me through this one don't leave me alone callin' all angels callin' all angels we're tryin' we're hopin' we're hurtin' we're lovin' we're cryin' we're callin' 'cause we're not sure how this goes 「姉」が戻った頃には、彼は気持ち良さそうにいびきをかき、鼻提灯を膨らませていた。 長い長いまつげ。 天使の様な寝顔で。 そしていつの間にか、空は晴れていた。 - - - 渡し船での不思議な出会い少女版はこちら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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