テーマ:妊婦さん集まれ~!!(4771)
カテゴリ:メイとオイと
その電話はやはり深夜にかかって来た。
おぉ。 遂に来たか。 飛び起きて、用意しておいた荷物を引っ掴み、まだ寝ぼけてる頭で階段を走り下りる。 真っ暗な町をスピード違反ぎりぎりにとばして友人DとJの家に駆けつける。 Dが長い長い足と長い長い腕をブラブラさせながらおろおろしている。 Jはソファで顔をしかめてうずくまっている。 J:うぅぅっ... 陣痛だ。 アタクシ:どう?間隔は何分? D:それがしばらく二十分程だったんだけど、おさまちゃったかもしれない。まぁ、こういう事はよくある事で、もしかしたらブラクストン・ヒックスかもしれないし... Dは動揺すればするほど口が達者になってしまう。一々聞いていたらきりがない。弁護士に多い傾向? J:うぅ... 今は陣痛じゃなくてなんだか突っ張ってるみたいな... うぅ... これはJの二回目のお産である。 DとJが職場で出会った時、Jは三十路前半、Dはその十五歳上、二人とも子供無し。 Jは子供が欲しくて欲しくて若過ぎた時に結婚、すぐ離婚。 Dは若い頃とてもモテたらしく、ジャズを聞きながらマルティーニを啜り、自分より若い同僚を集めての団欒が大好き。教養たっぷりで自由な人生を楽しみながら生きてきて、この歳で子供を作るのは乗り気ではなかった。 でもJはどうしても子供が欲しく、これが主な原因で分かれる、分かれない、分かれる、いや分かれない、と何ヶ月も揉めていた。 Jほど気の強い女性はいない。痩せ過ぎでいつも眉間に皺、一生懸命で一途で時々勢い余って事務の女性を泣かせてしまったりしているし、同僚の間でも恐れられているかもしれないけれど、大きな大きな愛情をエネルギー源にしている正義の味方である。 でも恐い。 自然に命令形になってしまい、それが似合うJ。 彼女にはかなわない。やっぱりDが折れた。 長女のLちゃんが生まれた。 Lちゃんが生まれた時、酷い難産だった。30時間経っても生まれず、40時間で陣痛促進剤、生まれた後も出血が止まらず手術が二回、三回、四回。産後の数日間は大変な思いをした。一時Jの命まで危ない、と心配されたほどだ。 Lちゃんが無事生まれて喜ばしい中、Jは元気がなかった。体が弱っていた上、何度も夢見た「理想のお産」をイメージに描き強く思い込んでいたので、精神的にもがっくりと落ち込んでいた。 なので、彼女はこの二回目のお産をおそれていた。同時に、前回を挽回するんだ、今度こそ安産をして、生まれたてほやほやの乳児を抱きしめて幸せを満喫するんだ、と目をランランと輝かせていた。 恐い。 J:だからあんたに協力してもらうからね!お産になったらムーミンと手伝ってもらうよ! アタクシ:え?え?ひぇ~、お産を手伝うの??恐いよぉ。 J:がはははは、ちがうよ!Lがあんたにしか懐いてないからお産で留守の間泊まり込んで子守りしてもらうんだよ!母に頼もうもLがぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるさく号泣しちゃってダメなのよ、あんたじゃなきゃ!ムーミンはおまけ!あんたらいつもくっついてるししょーがないね! ムーミン:どうせ僕はいつもおまけだよ。あはは。 アタクシ:あ、そう、いいよ、いいよね、ムーミン。 J:よーし、決まり!始まったら電話するからね! 「よーし、決まり!」も何も、最初から決まってた様な。 Lちゃんは破天荒な人見知りで自分の父であるDの顔をみてもワンワン泣いてしまう。お祖母ちゃんにも手におえないらしい。誰に似たのか(?)気性激しいLちゃん。 その一年前にDが長期入院した時も預かった事があるのだが、たかが一晩か二晩子守りすると言っても大の大人が振り回され、数時間でげっそりしてしまう。 覚悟して駆けつけたのだが。 やっぱり。 今回は空振りだった。 陣痛がぴったりおさまってしまったのだ。 用意がいい時は必要とされないものなのか。 そして次回電話が鳴る時はとんでもない事になるとは、その晩のアタクシ達は予想していなかった。 - - - the boundary様、続きますので。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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