カテゴリ:宝物
[画像・still life on a rainy afternoon] 大好きだったガラス細工のスタジオ・ギャラリーが閉鎖してしまった。 ガラス職人三名で仲良く共同経営していたのだが、一階がガラス炉・坩堝で、二階のギャラリー店から作業を見下ろしながら見学できるしくみになっており、ガラス好きには抜群のスタジオだった。 経営組の彼女達は、自信たっぷりの手つきでどっしりとした不思議な作品を生み出し、若い作家の卵もそこで数名育て上げ、博覧会に出場しては立て続けに賞を取っていた。 彼女達の友人の作家もよく炉を借りに遊びに来ていた。 時には楽しそうに、時には汗だらけで懸命に、作業をしていた。 炉をあけると「ゴーーーーーーーーーーッ」と恐ろしい音がする。 ドロドロな溶岩の様な、熱で真っ赤に輝くガラスを吹いたりのばしたりするのだ。 重いガラスの固まりを一人が棒をまわして吹きながら、もう一人がヘラで形を整えるなど、ガラスもやはり共同で制作する事が多い。 一つ間違えば大怪我である。 そこをうまく、手際よく、一緒に見事な作品を作り上げる。 時々、もう一息!という所で「パーーーンッ」と景気いい音をたてて割れてしまう事がある。 そんな時、顔を見合わせて高らかに笑う彼女達が大好きだった。 ガラスは頑丈でいて儚い。 ロンドンの英国博物館でアタクシが一番心撃たれる展示物は、ローマ帝国時代のガラスの骨壷である。 小さな、うっすらと青いガラスの壷の底に、小さなすすけた骨が少し残っている。小さな小さな骨だ。子供であろう。何万とある展示物に囲まれ、アタクシはその壷の前で立ち尽くす。 スタジオの夢も同じく儚いのであろうか。 ギャラリーも繁盛していたので、急に閉鎖、と聞いた時はびっくりした。 実は今年から 賃貸料がなんと三倍に急増する事になってしまったらしい。それに加え、最近は炉のガス代にも悩まされていたそうだ。 それでも彼女達は笑顔で閉店セールを切り盛りしていた。何か吹っ切れた、爽やかな表情で。 「閉まってしまうのは、とても残念です」と言うと、「そうね~、私達も悲しいけれど、でも、これでしばらく『営業』からはなれて『制作』に打ち込めるからね~」 なるほど。これからも力を合わせて、どこかで活躍し続けてくれるのであろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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