テーマ:こわーいお話(348)
カテゴリ:不思議な友
友人R氏は昔、ある大学病院の研究室で検査技師をしていた。
大きな病院のラボでは急患に備え夜勤の技師が必ずいるが、Rは学生の頃から夜更かし→昼夜逆転生活をしていたのでこの夜勤を進んで引き受け、他の技師から重宝されていた。 「いや、静かだしね、仕事ははかどるし、夜勤に当たらせられる看護婦さんって新米の若い美人が多かったりしてね」と鼻の下をのばして語るRにアタクシ達は大笑い。やっぱりねー。 ある深夜、同じく夜勤の同僚は急患の 採血 その数週間前にラボが違う階に移され、同時に広く快適になったらしい。「顕微鏡も新しくなってね、その晩はご機嫌だったんだ。」 広いって当時どのくらい大きなラボだったの?と聞くと、「そうだなぁ、昼間は技師40人ぐらいのロテーションだったかな、よく覚えてないけどそんな感じ」と言う事だった。「皆のベンチが全部見渡せるオープン・プランの大部屋だったんだよ。」ふ~ん。 Rはその大部屋で、カウンター機(親指でパチャパチャとレバーを引き、大きな数を数える時使う小さな機械)を片手に顕微鏡を覗き、フィールドに見える白血球を数えていた。白血病の疑いがある患者の血液検査だ。 その時「キッ」とラボの両開きのドアが開く音がして、すっすっすっすっすっすっとだれかが入ってきたが、カウント最中で目が離せなかったのでとりあえず 『は~い、ちょっと待ってね、いまあとちょっとでカウント終わるからね~』 と声をかけた。気さくで親切なRらしい。 「で、その人は大部屋を横切って僕の後ろまで歩いて来て、静かに待っててくれたんだ。夜ってラボに急ぎの用があったりするからもしかして急いでるのかもしれない、でもカウント狂わせたら後で大変だからさ、また『もうほんのちょっとだよ~、ごめんね、もうほんのちょっとね~』なんて声をかけながら終わらせてさ、振り向いたら 誰もいなかった。」 うそ~。 「もう、全身鳥肌がバババババババって立ってね、髪の毛が逆立っちゃってさ、固まっちゃって身動きもとれなかったんだ。その時にまたドアが 『キッ』 なんて開くから思わず 『ぎゃっ』 って飛び上がっちゃったら、ERに行ってた同僚だったわけ。僕が悲鳴なんかあげるからびっくりさせちゃって、もう少しで 採血 で? で? 「今ね、顕微鏡に向かってたら誰かが確かに入って来て、僕のとこまで歩いて来て、しばらく待ってたんだけど、振り向いたら誰もいなかったんだ、『気配』っていうのかな、確かにそこにいたのに、誓ってもいい、確かにいたんだ。もしかして待ちわびて出てっちゃったのかもしれないけど、そんなはずないんだなぁ...」 と同僚に言うと、彼女は、 「だって、今、私あの長い長い廊下をずっとずっと歩いて来たけど誰にも会わなかったし、ラボのドアは廊下のずーーっと向こうから見えるけど誰も出て来なかったよ。」と言ったらしい。 隠れる所などないオープン・プランのラボで、その晩は二人ともなるべく賑やかに仕事をしたらしい。 - - - その次の晩、ラボに到着すると真っ青な顔の同僚が数人駆け寄って来た。朝番を終え、帰り際の同僚だ。同僚にその不思議な体験談をしてから帰ったので、一日中その話は語り継がれていたのだろう。 朝番の技師が気付いたのは、新しいラボが、病院の霊安室の三階はなれた真上だという事。 それに気付いた彼等が昨夜の霊安室の記録を調べたところ、ちょうどRが白血球カウント結果を記入(時刻付き)した五分ほど前に、急性白血病で亡くなった患者が霊安室に運び込まれていた事。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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