on the other side of the world

これこそ応えた。

指輪の件の数日後、オフィスで　♪ふんふんふん～～～♪　と鼻歌まじりに通勤鞄に手をつっこんで、次の瞬間　







　　　　　　　　　　　が～～～～ん...







万年筆ケースがない。

鞄に手を突っ込んだままかたまった。

鞄の中の、いつもペンケースを入れているポケットにない。

それだけで　モノスゴ～～ク　嫌な予感。胃がキリリ！と引き締まるのを感じた。

ただの万年筆だったらなくしてもまた買い替えられるが。







座りなおし、無言で鞄の中身を全部机の上に出してみた。

アタクシって毎日こんなに持ち歩いてるのね。通りで重いんだ。

緊張で手がべとついた。呼吸もしていなかったかもしれない。鼓動が　どっくんどっくんどっくんどっくん　とこめかみに響いていた。

鞄の底のゴミやら丸まったレシートやらまで全部出し、この鞄を買ってから二度か三度しか開いた事のない「秘密コンパートメント」の極細ジッパーまで開いた時点で、胃が床まで　スットーーーーンッ　と落ちていった。

まさかそんな

いやだいやだいやだいやだ

うそ　うそ　うそ　うそ　うそ　うそ　うそ

なくしたとしたら、どこだろう。

なくしたとしたら、鞄が開いたまま車や電車やバスで座った時にケースごと転がり出したんだ、きっと。

電車の床から誰かが拾う場面が浮かぶ。

駅の前、笑顔で「ば～い♪」と手を振りながら車から降りるアタクシの足元、タイヤの近くに転がるケースが見える気がする。

やっぱり持ち歩くべきじゃなかったんだ。でも。でも。

あぁ、吐きそう。

このまま早退して探しに行かなきゃ気がすまない。行かなきゃ。







落ち着け。

机に散乱した鞄の中身にバッチのレスキューレメディがあったので使用。深呼吸。

まず電車とバスの遺失物取扱所に電話をしておこう。







　　　　　　　　　　「どの線ですか？調べてまいります」







　　　　　　　　　　どきどきどきどきどきどき







「それらしき物は、見当たりません」

「そういう高価な物はドライバーが預かっていて、当所に届くまで二、三日かかる事があります」

でも、二、三日って、もう経ってるかもしれない。







最後に使ったのはどこ？

今日は水曜日。

今週末は外出続きで使わなかった。出かけた時、確かに通勤鞄からハンドバッグにペンケースを移した。だからそのままハンドバッグの中、家にあるのかも。そうだといいんだけど。







昨日も使わなかった。昨日は一日中コンピュータに張り付いて書類を作っていた。

でも最後に使ったのはオフィスでだ。やっぱりオフィスで、なにやら書いて、考え事をしながら万年筆をうっとり眺めていたんだった。

問題は、それがいつだったか。







１・金曜日にオフィスで使って、無事帰宅して、ハンドバッグに移したままだったら「大丈夫」

２・でも月曜にオフィスで使っていたら、その後通勤中に「なくした」







月曜に使ってませんように。

月曜に使ってませんように。

と祈る様に呟きながら机に散らばっている書類にがさがさ目を通してみる。月曜に手を入れた書類に万年筆の文字はない。

机の上を散らかす鞄の中身を何も見えていないうつろな目で見ながら、どうしようどうしようどうしよう、とパニックをおさえていた。

ふといつも鞄に入れてある手帳が目についた。最後の日付は何日何時だろう。めくってみる。







ぎゃああああああ

やっぱり月曜だ。月曜にこの机に向かってこの手帳にあの万年筆で書き込んでる。







　　　　　　　　　　　なくしちゃったんだ。







　　　　　　　　　　







目眩がする。

ムーミンに電話してみる。

アタクシが珍しく動揺しているのでただ事ではないと察したのか、いつもより口調が穏やかで静かだ。

「鞄から転がり出るなんて、きっとそんな事ないよ、きっとどこかから出て来るから、最後にどこで使ったの？」

「そりゃあ大事にしてるのは知ってるけどたかがペンでしょ、怪我をしたわけでもないし、きっと出てくるんだし、大丈夫だってば」

と色々言ってくれるのだが、アタクシ、怪我をしたほうがよっぽどよかった、なんてバチ当たりな事を考えてしまった。

「今車の中見て来ようか？」

お昼ご飯が終わってからでいいよ...　ありがとうね。

「でも今知りたいでしょ？」

今車にあるならあるで、ないならないんだし、後でいい。ごめんね。







電話を切った後、また手帳をめくってみた。

最後に書いてあったのは、

「ベランダの家具を磨く事」







　　　　　　　　　　！！







そうだ。バケツを持ち出してベランダの家具を洗って肌寒かったけれど清々しかったのでコートを着込んでベランダでちょっぴりお茶を飲もう、と思ったんだった。

で、お盆に乗せたのは

・紅茶
・その日に届いたRからの手紙
・電話
・便箋と万年筆をケースごと放り込んだ小さなバッグ

だった！！！！！！

「万年筆を放り込んだ」！！！

そのままベランダでは手紙はそっちのけで、B女からかかってきた電話に出て長電話したんだっけ。

だから万年筆は使わないまま、あの小さなバッグの中！！！







　　　　　　　　　　







あーアタクシのバカバカバカバカバカバカバカ。

さっそくムーミンに報告。

最初から最後まで十五分かからなかった出来事？だが、寿命がひぃ～～～～～～っと縮んだ気がする。




- - -

失敗談を書き出すときりがないのだけど。

次はムーミンの大失敗談にしよぅ～～っと。