テーマ:こわーいお話(348)
カテゴリ:洋館の毎日
同じ様な大理石の踊り場と、絨毯の広間に出た。日本式で言うと三階、【C】=コンファレンス(会議室)レベルだ。
メザニン同様、左右に廊下が延びている。だが今度は比較的明るい。左の廊下の照明が点いたまま。 正面には大きな革張りの椅子が二つ。左側に電話ボックスが二つ。あの電話ボックス。旧式のボックスが取り付けられた時、きっと白黒映画に出てくる様な、受話器が二つに分かれた電話だったのだろう。 そして右の暗闇の先は、アタクシが怖い思いをしたエレベーター・ホール。 しばらくの間、消えたシャンデリアの下でケリーの言葉を聞いていた。 右手が攣るほどメモを書いた。 「まず左」と明るい廊下を示した。「ここも子供がいるけど女の子。」 「うわっ!」と E がアタクシに飛びついた。大丈夫?「確かに、お、女の子です」とやはりガクガク震えている。 あら~、可愛い子だし、迷子なだけだよ、怖くないよ、誰かを探してこの廊下を走るでしょ。 「ひぃぃぃ」と E が歯を食いしばる。 栗色の、巻き毛。と言いながらずらりと並んだドアの一つに向かった。 「そうなの?」とアタクシにしがみついている E に聞くと、コクコクコクコク。この子も、客が心配してフロントに問い合わせが来るらしい。 ケリーがドアの前に立っていた。 あの子、時々このドアの取っ手をガチャガチャ鳴らすでしょ。何ここ?会議室?マズイねここ、と眉を寄せた。 ...マズイ?今「怖くないよ」って言わなかった? 「ご覧になりますか?」と K が鍵を取り出した。青髭に出てくる様な、腕輪サイズのキーリングに鍵がジャラジャラついている。彼女が鍵を探している間にやっと iphone が再始動した。あー良かった。初めてのフリーズだったのでちょっと冷や汗をかいていたが無事らしい。すかさずカメラのアプリを起き上げた。 扉の向こうは普通の会議室。R が電気を点ける前、レース・カーテンの向こうに群青色の空が見えた。 女の子は怖くないけど、この会議室、苦情が来るでしょ、この隣、調理場だね。 見ると両開きの扉がある。 「そうです、この会議室用の特別ケータリング用調理場です」 あんまり使ってないでしょ。でも日暮れに食器やらお鍋やらを壁に投げつける様な凄い音がして苦情がくるのね。マズイよ。マズイよここ。 それを聞くと同時にシャッターを押した。その瞬間、K がまたヘタッとしゃがんでしまった。 「黒い影って思い当たらない?」とケリーが R に聞いている。 なんだ「黒い影」って。得体の知れない恐ろしさに脊髄が冷たくなった。 「あぁ。怖いね。怖いよ。出よう」とケリーが出て行くのでそそくさと後に続いた。 逃げるように踊り場に戻った。 黒い影って何?こ、怖いよ。何なの? スタッフが三人ともそわそわ顔を見合わせていた。 私たち、この廊下苦手なんです、今晩 ○○室の係なんだけど、って言うと皆「あぁ、一緒に行ってあげるよ」ってお互いサポートするんです、それほど怖いんです、だから夜も電気消さないんです。食器を投げる現象を調べに行っても毎回鍵が頑丈に掛かった真っ暗な調理室で食器は動いてないし、会議の前日のセットアップをしてると誰かに見られてる気がするし、照明が点いてるのに、時々黒い大きな影が... K が言葉を切った頃にはアタクシまた鳥肌だらけだった。全身鳥肌。脚にまで鳥肌が立っているのが判る。 「でもやっぱり一番怖いのはあの絶叫する女性だね。」 そんな真剣な顔で、こんな古城の薄暗闇で言ってほしくない。 そして、ケリーの次の言葉で逃げ出したくなった。そして思い出しては一週間ほど眠れなくなった。 - - - 続く あるいは、目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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