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遠いから来なくていいよ。
の母のメールを見ても辛抱強い祖父はきっと私とひ孫である子供を待っていると思い 夕方の飛行機で高知へ。 不思議な事ですがこの前の週二歳間近の息子が突然、 「本物の飛行機に乗りたい」 と何度もいっておりまさかこんなに早く飛行機に乗ることになると思わなかったなあとびっくりしながらも昼から荷物をしていたら息子が突然バイオリンケースを指差し「ママバイオリン弾いてと。」 実は私は祖父がターミナルと聞いたときから今の私が祖父に最期までにしてやれる事はなんだろうと考え続けていました。 本当だったら職業柄ずっと帰省してずっと最期まで介護の手伝いをしようという覚悟も主人に相談していましたがこちらの生活を考えた母の意見もあり少し帰省したり相談に乗るといったことだけしていました。 本当に最期を迎えるとき。 私に出来たのは今まで仕事でお年寄りに弾いてきたバイオリンを弾いて痛みや不安を 和らげる事ができるかな?と時々ぼんやり考えていました。 あさからおしっこも止まったままで栄養も入らなくなったし点滴もやめたと聞いていたので 間違いなく考えたくなくても祖父の最期はやってくると腹をくくり・・・。 荷物が多く子供も抱えなくちゃいけないことでためらっていたバイオリン持参を子供の一声で思いなおし思い切って持参する事に。 直感で通常の病院では不可能でしょうが、とはいえ絶対あの婦長は枕元での演奏を許可してくれると思っていました。 夜到着し、祖父の顔を見ると意外にも呼吸器をつけた祖父の顔が穏やかでほっとしながらもおしっこの止まったままの状態でいつ訪れるかもしれないお別れに先に来てのんきにほか弁をほおばる妹一家とにぎやかに祖父の側でひと時を過ごし、「今日は遅いから弾けんけど明日バイオリン持って来るき」と起きているらしき祖父に告げ実家へ。 夜になってもやはり中々寝付かれず睡眠不足のまま朝さわやかな顔の息子に起こされ朝を迎えました。 「ああ、祖父は無事朝を迎えたんだ・・・」と実感しながら。 昼前に母と息子と病院に向かい母が先にバイオリンを持ってきていることを婦長に告げてくれたらしく、 「えいよ、えいよ弾いちゃって。他の患者さんも暇しちゅうき。」 と快諾してくださり母と「何弾こうか?」 と相談しながら唱歌を何曲か弾くと・・・。 入り口に見物客が。しまいには「私、クラッシックが好きで・・・」とリクエストまで出る始末。 肝心の祖父ははじめは寝ていましたがバイオリンの音にぱっと目に光が出てじーっと音を聞いているようでした。 1日中側にいたかったのですが2歳満たない子ともが長いことおとなしくしてくれるわけはなく・・・。はじめは張り切って一緒に歌を祖父の耳元で歌っていた息子も弾いている横でかまってもらえないのですぐ泣き始めてしまい外に連れ出したり用事をしにいったりちょこちょこ弾いて疲れの残っていた息子と早めに病院を後に。 祖父は何と危険だった血圧も昨晩より90以上を保ち数値が奇跡的に安定しているとの事。血圧を聞いておしっこもだなくなったままなのに確信のない安堵で「まだ明日も側にいられる。」となぜか思いました。 その晩、病院から戻ってきた母と枕を共にしながら色んな話をしていて、祖父が桃が好きということを知りました。 他に話せなくなっている祖父が今したいことは何だろうと一生懸命考えて次の朝が来たらいろうになって口から長いこと食べたり飲んだり出来てないから絶対冷たい桃を買ってきてやろうと思いながら眠りにつきました。 そして何と三日目の朝を迎えました。 正直驚きました。 こんなに頑張っている祖父の表情を見ながら三日目、「祖父はこれで本当に望んだ最期なのだろうか」「まだしてあげられる事はないのだろうか」「こんなに頑張らせていいのだろうか」と葛藤しつづけながらも在宅で八ヶ月母や祖母と穏やかな日々を過ごし、それを支えてきた母や訪問看護さんや先生の事を思うとこれが今のせいいっぱいなんだろうな、来るべくして来た時なんだなと思いはじめていました。 病院にいくと婦長が母に「ちょっと血圧が落ちてきてるからひょっとしたらひょっとね・・・」と告げました。 ああ、きっと祖父と過ごせるのは今日日中のうちで次の朝は来ないだろうと経験上悟りました。 午前中から今日もバイオリン片手に祖父の好きだった歌や子供の頃弾いて褒めてくれたコンチェルトを弾いてみたりし、何としまいには婦長も参加して『花』(はーるのうらーらーのー)を大合唱までしてしまい婦長の病室が壊れそうなほどの大きな美声に前日よりもギャラリーは増えさらににぎやか。 この日は祖父はずっと目を開けて周囲の様子を伺っているようでしたし目の前で演奏している私をじっと見つめているようでもありました。 朝から買出しに行ってきて地の産直市で出てきたばかりの桃を見つけてきてドクターに許可を頂き汁と小さなかけらを祖父の口に含ませました。 祖父の表情は一瞬戸惑いを見せましたがすぐにしばらくしていなかったもぐもぐをし飲み込む口をしていました。 表情では嬉しいのか分りませんがごっくんと祖父がした瞬間、目の前で祖父が自分の意思で口を動かした事に 「目の前の祖父は力強く最期まで生きようとしているんだ」 と強く実感し涙が出そうでした。 覚悟を決め最期に会わせたい人に連絡をしていた母からの連絡を受け飛んできた人が夕方には二人訪れました。その人たちの話しかけに祖父は間違いなく耳と目を傾け、全身で何か告げているようでした。 帰り際、朝が来ないことを確信しながらも「またあしたくるね」と告げた祖父の最後の表情は 本当に安心した穏やかな表情でした。 そして・・・・。 朝、四時過ぎ、実家の電話が鳴りました。 祖父が亡くなったとの知らせでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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