カテゴリ:探偵
六時間の時を過ごしたのちに分かれました。 こうして四年間にわたり行なわれた浮気調査は、ついに成功を治めたのです。 いや、それが成功と呼べるかどうかは依頼者によります。 鬼の首取ったり、と喜び勇み、直ちに慰謝料の請求手続きに着手する者、 驚愕で、その場を動けなくなる、あるいは、怒りで我を見失う者。 この依頼者の場合は想像に固く、やはり、後者だったのです。 そんな依頼者を、報告担当者は、畏敬の念を込めて、『師匠』と呼びます。 日中、旦那が居ないから、と自宅に招かれた報告担当は、 報告書に証拠のビデオテープを添付し、その調査の一部始終を語り始めました。 やがて、報告が核心部に突入すると、落ち着き払った師匠の表情は一変します。 そう、そこには勝ち誇った優越の笑顔などはどこにもなく、 それは、我々が日頃よく目にする、一連の手順を再現したものだったです。 驚愕の表情を皮きりに、困惑、恐怖、悲しみ、怒り・・・。 どれも見慣れた光景です。 たった一つ違ったのは、担当が、証拠のビデオテープを再生した時だといいます。 パチンコ店でイチャイチャする二人の様子は、まともな神経では耐えられないものです。 怒りでその唇を震わせる師匠。 時折、姿を覗かせる、猛禽類にも似たその犬歯を、強引に閉じ込め、 なんとか我を保とうとする師匠も、夫がその女に唇を重ねたときには、ついに、制御不能に陥りました。 アイーン、アイーン。 神経質に鋭い顎を、さらに細め、おしげもなく全面に押し出し、目を見開く。 アイーン、アイーン。 悲しみを打ち消すように・・・ アイーン、アイーン。 担当いわく、あんなに恐ろしく、哀しげなアイーンは見たことがないと・・・ アイーン、アイーン。 羞恥心を押し殺すように・・・ 女五十代、アイーンする(続) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.01.26 21:22:59
|