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tartaros  ―タルタロス―

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こうず2608

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2008.05.22
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カテゴリ:小説紛い
久しぶりに小説めいた文章を書いた。

 


「夜の海」




 その晩、彼が床に就いたのは午前二時になろうかという頃のことであった。

 彼は、学生である。勉学に励むべき身分であるのは元より言うまでもないが、彼はとりわけ真面目な人物という訳ではないし、むしろ常人よりもある意味で非常に劣った所のある男なのだ。その劣った男が日付を跨ぐまでの間、また完全に日付が変わってからさらに2時間ほどの間に何をしていたか、というのは、この話を語る上でさほど重要な事柄と思えないから割愛する。
 だが、あえて一部分だけを申し述べるならば、それは彼にここ数週間の間にすっかり身に付いてしまった悪癖の産物であり、また劣った男に相応しい劣った行いとである……とだけ言うべきであろう。
 枕に頭を置き、適当に畳んでおいたためにすっかりぐしゃぐしゃになってしまった布団を被る。眠る為には明かりを消さなければならないから、部屋の中にいくつかある明かりのうち、最も大きな物を彼は一度布団から身を起こして消した。そうして枕元にある別の明かりを点けて、件の悪癖のためにここ数日すっかり中断されていた読書を始めた。
 このような時間に読書を始めるなど、以前の彼からは考えられない行動であった。彼は真夜中に本を読むべきではないという、ある奇妙な、特に根拠の無い一線を引いていたが、その意識はすでに過去のものと呼ぶべき事柄であったのが、現在の彼という人間であったのだ。
だが、ほんの二,三頁を読んだだけで、彼はこの中途半端な時間に行われる読書を中断しなければならなかった。それは外から入り込んだのか、それとも内から湧き上がってくるものかは判らないが、彼の意識は少しずつ、同時にまた確実に小さくなり消えていこうとしていた。まるで頭の中で小さな虫が数百匹ワッとたかっては彼の思考を食い荒らそうとしているかのようだったのだ。
 眠気のために彼の意識は虫食いの穴だらけになった。それは決して生死に関わる事柄ではないけれども、本を両手にしたままで、中途半端な時間に中途半端な格好のまま眠りこけるというのは自分以外に誰も知るものが無くても妙に気恥かしいものである。まして彼は臆病な男であり、日頃、居もしない化け物や亡霊や、恐ろしい殺人鬼や、自分を嘲笑しようとする敵に対して一方的な恐怖と怒りとを持っている人間だった。
 本に栞を挟み、枕元の電気を消すと、部屋の中は真っ暗になる。
 光の無い状況では眼という感覚が役に立たない。闇の中に視るべきもの無い彼は、おとなしく眼を瞑って眠ってしまおうと試みなければならない。
 眼を開けば闇で、眼を閉じても闇だ。いつの間にか、眼とは違う他の感覚が少しずつ鋭敏になっていくかのように感じられた。明かりのある時には全く聞こえなかった、時計のコチコチいう音が聞こえる。
 現在の住処に居付いて以来、一度も洗濯などしていないシーツには指に小さな傷を拵えてしまった時の血の染みが、赤黒く変化した姿でこびり付いていたのを思い出した。いつの間に抜け落ちたのか知れない髪の毛やその他の体毛が、其処此処に散っていたのを思い出した。肌はざらざらと、少しずつ砂のような感覚をシーツの上に認め始めた。体から出た垢の小さな塊であろうか。布団と薄手の毛布を被っていると少しだけ暑く、体に蓄えられた水が汗として体の奥底から僅かずつ搾り取られていくようだ。もう寝床に暖かさを求めるような時季ではないのかもしれなかった。
 その晩、彼はなかなか寝付けなかった。ついさっきまで自分の意識を食い荒らしていた虫どもも鳴りを潜めてしまったらしい。
 あるいは深夜まで起きていたせいで、眠くなるどころか神経がある種の昂りを覚えてしまっていたのかもしれない。今までにもそうした心理の昂りによって眠れないということはよくあったし、他人がそうなったという話もよく耳にする。今回のもまたその類に過ぎないであろうと考えて、彼はゴロリと寝返りをうち、眼を瞑りながら頭だけは冴え冴えとしたまま思索とも物思いともつかない考えに耽り始めた。


 そのうち、彼はウトウトと、真っ暗な海へ向けて単身で漕ぎ出していった。
 風も無い生温い夜の海は、とてもとても穏やかなものだ。身を横たえたまま波に揺られてあても無くゆらゆら、ゆっくりと進んでいく。海にもまして黒く塗りつぶされたような空には星も雲も見える気配は一切無い。
 彼は時々、波に顔を現れながら海面をたゆたっている。黒い海に抱かれながら黒い空を向いて、何も考えずに眼も口も半開きにしたままひたすらに漂うばかりだ。
 全てが温く、ゆったりとしていた。蠕動にも似た心地よい波の動きに、やがて彼の意識は次第にグルグルと回転を始めた。どんどん海からも空からも遠ざかって、ただ真っ暗な世界へと迷い込んでいった。
 気がついた時には、空も海も、肉体さえも無くなっていた。ただ彼という存在がそこにあるのみであった。何も無い。ただその深さを推し量る事などできないであろう真っ暗闇だけが在った。時間も空間も無い。ただ闇だけが在るのだ。
 やがて――やがて真っ暗闇だけの世界に、彼の意識は無数のものが居るのを見た。
 初め、それは自分以外にその空間に迷い込んだ者たちであるように彼には思われた。だが、彼との明らかな相違に拠る所として、無数のものは顔だけが在った。真っ暗闇だけが在る世界に、彼と、無数の顔だけが在った。
 爆風で焼かれた少女は、その溶け崩れた顔を彼に向けて笑いかけ、両手を差し伸べてきた。彼はその醜悪な様子に嫌悪の情を覚え、無いはずの鼻をつまみ、無いはずの眼を背けた。喪服を着て赤ん坊を抱いた母親は、なかなか泣きやまない赤ん坊をあやしながら、彼に恨みがましい視線を寄越した。ギュッと釣り上った鬼のようなグロテスクな眼は、彼に非常な恐怖を覚えさせるのに十分だった。
 卓越した戦闘の技能を持つ古代の英雄は、その立派な槍で彼の胸を突き刺した。激しい痛みに襲われたが、それはまた観念の上でのことであるように思われ、痛みを感じはしなかった。慈愛に満ちた表情で穏やかに微笑む老紳士は「私は不義を憎み正義を愛す」と高らかに宣言し、それをただ傍観しているだけだ。囃し立てもしないし止めもしない。

 やがて、彼は、思った。

 これは矛盾している。何もかもが矛盾している。この訳の解らぬ世界の中は矛盾している。非合理だ。筋道を立ててまともに考える事ができない。馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しい。
 「無」とは何だ。何も無い。光も闇も生物も無生物も時間も空間も無い。それを見てみたいものだと彼は思った。「見た瞬間に無ではなくなるじゃないか」と誰かが言う声が聞こえた。考えるのは途方もない事のように思われた。島影の全く見えない夜の海に放り出されたようだ。

 …………彼は、恐ろしくなった……………。

 ……………………………………………………………………。

 ………………………………。




 次に彼の眼が見たものは、見慣れた住処の天井――「まだ、2時10分――」。
 起床を予定する時刻まで、あと4時間35分。

 夜は、長い。






―――――――

相変わらず漂う濃厚な説明文臭。文章力が欲しい。
話そのものはそれ以前の問題だけど。





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Last updated  2008.05.22 22:26:18
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