tartaros 　―タルタロス―

さて、この二日で社会の耳目を集めているのは何といっても、例の秋葉原無差別殺傷通り魔事件な訳だ。

もしやと思ったら、どうもこの恐ろしい事件の犯人もオタクらしい。
全くどうして児ポ法云々で紛糾しているこの時期にこんな事件を起こしてくれたのだろうか。いや、別にいつ起こしても完全にアウトなんだけど。

ここ最近まともにテレビを観ていない俺だが、件の事件はYahoo！のトピックスで知った。
トップページに戻る度に切り替わる見出しは、状況が予断を許さない緊迫した物となっている事を察するには、記事を読まずとも充分過ぎた。

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それにしても、「通り魔」事件である。

取り憑かれると錯乱し、狂気に陥り、常軌を逸した行動に走るという「通り悪魔」を語源とする言葉であるとされる。
「日本の安全神話が崩壊した」などと叫ばれて久しいが、今回のような通り魔の存在は崩壊した安全神話の残骸を見せつけられるかのような、その最たる出来事であろう。
そもそも「日本は安全」という神話に何らかの具体的な根拠があったのか怪しいものである気がするのだが……ともかくも、この事件は安全と思い込みやすい日常に予期せぬ形で顔を出す狂気の一形態であるように思われて仕方がない。

こんなイカれた事件を発生させてしまうのは、オタクであれリア充であれ、老若男女に関わりなく皆が皆内なる狂気の種を飼っていて、詰まるところその種が発芽してしまうか否かの問題ではないか。
その種を発芽させる水が「通り悪魔」の狂気であり、それは普段どこに潜んでいるものやら、皆目見当がつかない。
仕事が上手くいかなかったのか、人間関係がこじれたのか、痴情のもつれか、はたまたアニメやら漫画の影響か。
狂気の源泉には様々な理由が考えられるし、既にその一端は報道されているようだけれども、犯人が犯行に及んだ詳しい動機も捜査が進めば追々判って来るのだろうが、問題は、今の世の中があまりにも「通り悪魔」に充ち満ちている事なのではないだろか。

狂気の種を発芽させる水の種類が多種多様になっているし、発芽のスピードや、その芽の形も異常になってきているような感じがする。
誰しもが「通り悪魔」に魅入られてしまうような危険があるような気がする。
そして、「通り悪魔」はいつ、誰に、どのような形で取り憑くのか、それは誰にも判らないのだ。

いつ、誰が、どのような形で狂気に陥るのか。
もしかしたら明日には隣人がその心にタダならぬ理由を秘めて、包丁を持って襲いかかって来る危険があるかもしれないというのは、その理由を考慮に入れなければならないとしても、全く無いとは言い切れない（……さすがに飛躍し過ぎか）。

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結局、我々にできる事と言えば日々の報道を見ながら犠牲となってしまった人々の冥福を祈り、同時に誰も「通り悪魔」に（自分自身も含めて）取り憑かれないようにも祈り、また精一杯の予防策を講じようと努力する事だけだ。

身も蓋もない言い方をしてしまえば、いつまでも「第三者」の立場でいられるのが最高の理想だろう。

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が、第三者がいつ加害者やら被害者やらの当事者に早変わりするか、なんて、それこそ「通り悪魔」の存在を抜きにして考えても全く予測できない。

安心は人間の精神が勝手に産出してくれるが、安全を100%保障された場所なんて、初めから存在しないのだから。