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カテゴリ:読書
ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」(若島正訳・新潮文庫)読了。 凄い…凄い小説だ……。 どこが凄いのかというと上手く言えないんだけど…とにかく凄い小説だ……。 ――――――― 「ロリータ」という言葉から一般的に想像されるイメージは、とかくネガティブなものになりがちだと思う。 が、この物語はただそうしたイメージを想起させるだけのものでは決してない。 確かにハンバート・ハンバートがニンフェットへの愛情を精緻を尽くした表現で語るのは相当に気持ちが悪いし、少女ロリータへの執着も異常と言えるほどだ。 だが、性的な欲求を伴った、そうした汚らしく不快であるはずの倒錯の愛情でさえも、この物語は美しさへと転化させてしまう。 ロリータを巡るハンバート・ハンバートの悲哀こそが、そうした奇妙な逆転現象の(いくつか存在する中の)一つのスイッチであるような気がする。 欲望が引き金になったょぅι゛ょのために人殺しまでするのは確かに異常だ。 だが、「理想」に裏切られ、打ちのめされていくハンバート・ハンバートの姿、そこには既に醜さなどは欠片も見出せず、破滅へと向けて一直線に突き進んでいく男の悲しさだけが尾を引いている。 やろうと思えば、もっと性的な要素を全面に押し出したポルノグラフィーとしての性格の強い物語に成り得たはずだとは思う。 しかし、ハンバート・ハンバートが追い求めているのはただ自らの倒錯した欲求を満たすことだけではなく、己が理想をこそこの地上に再現したいという、純粋な欲求の存在すら窺う事ができるのではないかと思うのだ。 そう考えると、彼がロリータとの交接を目論んだのは、「醜」と「美」の間を行き来する複雑な心理の産物なのだろうか? しかし、理想はやがて彼の元から失われ、朽ち果てて消滅してしまう。 それでもなお、もう永久に手の届かなくなったかつての恋人への心配りを忘れなかったのは、束の間とはいえ彼の理想と欲望を同時に成就させた女性への礼儀か、あるいはまがりなりにも義父としての娘への愛情ゆえの事だったのかもしれない。 「ロリータ」というタイトルだけで敬遠せずに、多くの人に読んでみて欲しい小説だと思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.07.18 23:47:18
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