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2008.09.13
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カテゴリ:読書
大空の恐怖



読書会レポートです。

今回のお題は「コナン・ドイル」作品。
やはり推理作家としてのイメージが強いのか、書店でも見かけるのは推理小説を収めた作品集が多かった。
とりあえず、「ドイル傑作選2 北極星号の船長」(北原尚彦・西崎憲編:創元推理文庫)から、「大空の恐怖」という短編について。


―――――――

 この短編は、高空飛行の限界に挑むパイロットが空中で奇怪な生物と遭遇し、襲われるという物語だ。彼は二度そうした怪物たちと遭遇し、一度目は命からがら生還するものの二度目はついに殺されてしまった。

 人間が未知の場所へと踏み込む時に冒険者たちに生じる問題の一つは、その場所それ自体をも含めた、種々の要素がおよそ常識を外れた奇妙なものに感じられる点ではないだろうか。曰く、これまで知っている世界とは違う気温……見た事の無い植物……不思議な昆虫や生物たち……そうしたものは、彼らの知っているあらゆる要素の外側に置かれているのであり、陳腐な常識では図り難いものに他ならない。それらは時として脅威にすらなり得る。
 青く深い海に、あるいは新たな陸地にそうした枠外の存在を見出した人々は、それを解釈する必要性に迫られる。時間の経過は次第に彼らに知識の蓄積を促し、かつての「脅威」はその恐怖を失うのである。

 けれども、人は勝手な思い込みで未知の場所に関する知識を想像(あるいは創造と呼んだ方がふさわしいか)することもある。海の向こうは崖になっていて落ちたら助からないとか、海水は煮えたぎっているとか。はたまた恐ろしい怪獣が多数潜んでいるだとか……。それを見ないうちには、よく考えれば幻想に過ぎないのだが、一度それらの知識が人々の意識の中に固着してしまうと、まるで強固な鎧のようになる。そして、それを引き剥がして真実の姿を彼らに見せるのは、というよりも彼らがそれを見ようとするのは一苦労と言わざるを得ない。
 
 「ジョイス=アームストロング断簡」の著者であるジョイス=アームストロングが出会ったのは、しかし、幻想などではなかった。紫色の体色を持つ恐ろしい怪物は触手でもって飛行機上の彼に襲いかかり、アームストロングは銃を発砲する事で何とか撃退に成功するのである。
 彼は何とか生きて帰ってくることができたが、その後の飛行では「証拠」を求めて飛び立った。なるほど納得できる行動だろう。いくら彼が天空で出会った美しいクラゲ、さらには恐ろしい紫色の怪物の話を口頭でするだけしても、「まともな」考えを持つ人ならば奇妙な与太話の類としか感じないに違いない。彼の話は、地上の人間たちにはそれほど突飛だ。
 あたかもかつての船乗りたちが海の向こうを人外魔境と信じて怯えきっていたように、アームストロングの体験もまた事情を知らぬ人々から見ればおとぎ話に過ぎない。

 しかし、それ以前にも天空に住まう未知の兆候は確かにあった。何人かの飛行機パイロットが異常な状態で死んでいたのだ。だが、我々は地上しか知らない。どだい鳥のような翼を持たないから空の世界など知りようもなかった。だから自分たちが知る限りの精一杯の知識でそれらの解釈を試みたのである。
 狭量な知識しか持たない状態でまだ見ぬ世界を批評する……それは非常に滑稽であると思う。それこそ化け物たちの世界を夢想するかのように。人々は井の中の蛙なのだ。
 アームストロングは未知の空に潜む危険について、ある程度の確信を抱いていたフシがある。彼は空中における未知の場所を「空のジャングル」と表現している。そのジャングルこそは、かつて人が飛行機で空を飛ぶより以前の海であり、新大陸なのだ。
 彼の行動がもしも完全な形で成功していたとすれば、人々の根拠の無い空という名の新世界への夢想は脆くも崩れ去っていたに違いない。

 ジョイス=アームストロングが遭遇した脅威こそは、少なくともそれまでの常識とはかけ離れた未知の存在だった。
 新たな場所、未知の存在を人間が知覚しなければならない時……とりわけそれ自体が恐怖を喚起して具体的な脅威の形をもたらす時……真っ先にその危険に晒されるのは、初めてそこを訪れた者なのである。そして、その「未知」が新たな知識によって解釈・理解されるまでは、ずっと恐怖の座に君臨し続けるのである。

 「此処」とは違う向こう側の世界を、未だ見ぬまま危険に満ちていると決め付けるのは愚かだ。しかし、安全であると決め付けるのもまた愚かであるように思われる。
 アームストロングに続く誰かが確固とした証拠を手にして衆目に公開しない限り、彼の体験した「大空の恐怖」はいつまでも謎のヴェールに包まれて、嘘か真か判然としないままであるのかもしれない。
 あやふやな「未知」を確かな「既知」へと進化させるには、人の命を代価としなければならなければならない時すらもあるのではないだろうか。我々は、先人たちの幾人かが流した血によって舗装された道を歩きながら、未知なる場所へと進んでいるのだ。
 その先に何が存在するのか、それは未だ判らない。
 判らないが、俺はこの作品を読み終わった時、何だか無性に怖くなって思わず空を見上げてしまったのである。

 我々人類の未だ知らない場所では、人類の未だ知らない生物たちが、人類の未だ知らない営みを行っているに違いない。
 それが断片的にしか伝えられない限り、人類が知っているのは今だ自らの創り上げた「箱庭」の中でしかあり得ないのだという事をまざまざと思い知らされる。



 ――――まったく、箱庭の外に何が在るのかも知らない種族が、さも全てを知っているかのような顔つきをして大手を振って歩きまわっているのだからお笑い草だ。





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Last updated  2008.09.13 23:45:47
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