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tartaros  ―タルタロス―

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こうず2608

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2008.09.16
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カテゴリ:小説紛い
ネタ無いからだいぶ前に小説でも載せておく。
被害妄想の男がひたすらブツブツ喋ってるだけの話だなコレ。
字数制限に引っ掛かるので2回に分けます。

―――――――

「侵犯する穢れ」


 その朝も、私は何の疑問も抱かずに列車に乗り込んだ。
  
 折からの強い風に吹き付けられた街には、どこから飛ばされてきたものかは知れないが、あちこちの道という道、通りと言う通りに茶色とも黒とも見える、砂か埃かも判別し難い小さな粒が飛散していた。私が家を出た時もその粒を舞い上がらせる原因である強風はその勢いを衰えさす気配すら見せようとはせず、相も変わらず我が物顔で街と人々とをささやかな形でもって蹂躙していたのだった。おかげで、綺麗に整えてあった私の服も上着も皆、あちらこちらにその砂か埃かも判らないような物が付着しており、黒かった色が、私が駅に到着する頃にはもうすっかり薄茶色のボロ雑巾のように錯覚してしまいそうな風に変わってしまっていた。それは私の周囲にいる人、人、人も同じであり、皆が皆服といわず肌といわず髪といわず、薄汚れて茶色く変化していた。風が自分に向けて吹く瞬間に、砂を警戒して思わず眼を閉じてしまうという光景を幾度か見たし、また私も砂を恐れて目を瞑ったことが、駅までの道程で一度ならずとあった。
 その日は、街全体が茶色と黒に薄らと覆われてさえいた。きっと空から見たら、茶色い巨大な膜が一つの街を覆い尽くしているような、奇妙な光景であったことだろう。

 それは駅とても例外とするわけにはいかない。その背の高い建物は、風と砂と埃と塵の連合軍によって完膚なきまでに叩きのめされて、もうすっかり汚れきっている。普段の、小奇麗な印象など風と一緒に吹き散らされてしまったかのようだ。その汚れたこれもまた茶色の駅は、同じく茶色に汚れた人々を、次々と体内に収めていく。その貪婪とでも言うべき様子は、まるで巨大な怪獣のような威容をさえ発していた。尻尾も、腕も足も、眼も角も爪も持たない巨大で奇妙な造形の怪獣であった。
 私がA市行きの切符を買ってホームまで下りた時――すなわち私もかの貪婪極まる怪獣の胃袋に収まったのだ――には、既にそこは人で充満していた。怪獣の胃袋は満腹となり、今はもう排泄を待つのみである。そこには駅の外とは明らかに違う、別種の空気に満ち満ちているのを感じる。暗い、濁った、苔と水垢の繁殖した汚らしい水槽の底のような穢れた印象。そうした空気がここからとも無くそこからとも無く、ホーム一面に漲っていた。呼吸する度毎に、その汚れて滞留した生温い汚水のような空気が肺腑の奥まで吸い込まれているような気がして堪らなく不快だった。
 人々の顔は形や造りの差こそあれ、皆一様に同じ色、同じ特徴を発しているのを見た。精彩を欠いた彼らの顔こそ、この生温い空気を作り出している大元なのだ。彼らは男女の別に全く関わりない特徴を同じく具えている。どろりと濁ったような眼、どうしようもない息苦しさから逃れよう逃れようとひくひく小刻みに動く鼻、だらしなく開かれた口、その中から覗くねっとりとした唾液に塗れた舌は、白くなりかけの桃色だ。どうかすると粘着く唾液が口角から漏れかねない様子……。
 一見して不快な嫌悪感を催させる彼らこそが、この濁った空気の製造者だ。一度その事実に思い至った後の私は、ただひたすらに脳味噌の奥底から湧き上がる、どうかすると叫びだしたい気持ちを我慢するより他になかった。それは、万象に向かって「気持ちが悪い」と叫びたい欲求だった。汚らわしい汚物の製造者である彼らの肌からは、やはり汗の代わりに汚物を排出しているという幻想にさえ囚われてしまうのだ。そして、彼らの放つ汚物は砂や埃と混じり合っては風に吹き散らされていく。彼らの鼻や口から吐き出される塵交じりの息が、このホームに堆積している。その塵は風に吹かれてやって来た闖入者、茶色い砂や誇りと混じり合って飛んでいく。
 不快だった。堪らなく不快だったのだ。

 やがて、電車がやって来る。汚物の塊――人々は津波となって歩く。私も彼らに呑まれそうになりながら、電車へ歩く。涙さえ流したいような気分だった。すると、もう一つの人の津波が私たちの津波と正面から衝突し、やがて通り抜けて行った。それは目的の場所へ到着した故に電車から降りんとする人々の集団だった。彼らの姿は、砂にも誇りにも汚れていなかった。電車の中は清らかな世界であるのか……彼らは清らかな人々なのか……それはその時の私には判らなかったが、感動を覚えると同時に絶望しなければならなかったのは確かである。美しく清らかな、まっさらな彼らは、いずれこの穢れた人波に飲み込まれてしまい、その穢れも無き姿を失ってしまうのだろうから。
 ふと、電車から降りる人の津波の最後尾、一人の老女と対面する形になった。私よりも頭二つ分ほども背の低いように見える彼女は、銀色にも見ることができるであろう見事な白髪を、紐で以て頭の後ろで結わえていた。年齢と共に薄くなってしまったのではないかと推察できる、地肌の見える髪の毛の群れからは彼女の年相応の貫禄のような何かが感ぜられて、私の心中で僅かに敬慕の念が興る。私がかように老女に、まるで見惚れてでもいるかのようにその場に突っ立っていた所に、ピピピピ……ピピピピ……と、甲高く無感情で、事務的な高音が響き渡った。そろそろ発車の時なのだ。
 老女は、自分自身に対して私が「邪魔だ」と感じているとでも思ったのであろうか、何が入っているのかは知らないが、しっかり両手で持ち手を掴んでいた大きく重そうな鞄を右手一本だけに持ち替えて、
「御免なさいね……兄さんの邪魔をして、ね………すいませんね」
と、御免なさい、すいません、を繰り返し繰り返し私の体の横を、心持ち急いでいるように見える動きで這うように通り過ぎて行った。
 私はこの老女に対して、他の電車から降りてきた人々とは違う、格別の敬慕と感動の念を禁じ得ずにはおれない。彼女と今この瞬間に初めて出会ったばかりである私が言うのは滑稽であるが、歳を重ねるごとにその清らかさを増してきたとも思われる、その神々しくさえある美しさの一端――それほど上等でも無い身形であったが、どこか世間擦れのしていない感じを抱かせる非常に不思議な魅力であった。
 私は電車に乗り込んだ。老女のなおも重そうな鞄を持ってふうふう言いながら歩いて行く後ろ姿を見送りながら。

 私が乗ったのは、A市行きの電車の、一番先頭の車両だった。
 電車の中は、満員とはいかないまでも、それなりに混み合っているといって差し支えのない状況だ。先ほど不快と嫌悪感を覚えた穢れた人々と同時に同じ場所に詰め込まれる、そうした状況は、またも私の中に嫌悪の予感を起こさせるには十分であったが、電車の中は外の埃と塵とが混ぜ合わされた空間とはまた違った印象があった。全てが清新としていた。私の体の外側を埋め尽くす彼ら――私の不快の原因となった彼らは、立つ者もあり、座る者もあり、首をカタカタと眠気に揺られている者もある。私は、彼らと出会って初めて不快を忘れていた時間が、その時だったように思う。
その時の私にとっては、この電車の一車両の内部こそが世界の全てで、彼らは同居人である。全く同じ空間を共有する私以外の人々である彼らの発する汚らしい物共は確かに存在しているが、しかし、その時だけは排出され続ける彼らの汚物でさえ、その汚らわしさを私自身が忘れていたのは事実である。全ては眠っていた。決して動こうなどとは考えてすらいないようだった。
 これは慣れであるのか、あるいは錯覚か、それは判らないが、少なくとも彼らと同時に存在していたその時の私が、唯一彼らへの嫌悪の感情を感じなかった瞬間であることは確かなのだ。それまでと比べて考える時、明らかな「異質」であるこの現象が、非常に好ましい事であったのは否定のしようが無い。しかし、その清新な空間は、決して長く続くものではない。
 電車が途中の駅に停車した。扉が開いた。降りる者があった。新たに乗り込む者があった。ひとつの空間が破壊され、再生した。再生した空間は元の形にはならずに、全く違う別種のものになってしまった。
 それは眼に見えず、耳に聞こえず、おそらくは鼻でも口でも感知する事はできなかったであろう。しかし、私は判った。これは以前とは違う新たな「異質」なのだと。その異質は、さっきまでの清新さとは違うし、かといってそれ以前に感じていた不快や嫌悪を催す物とも違う。侵されがたい神聖な領域に土足で踏み入られたような感覚、錯覚、誰にも触れられることを厭う自分だけの宝物を汚れた手でベタベタと触られたような――そんなものであるように私は思った。それに対して抱いた感情は、不快とも嫌悪とも好ましさとも違っているのだ。
 これは「怒り」だと私は思い至った。怒り。空間を汚された怒り。踏み込んではならない場所に踏み込まれた事への怒り。他者に自己を侵害されたような怒り。左手で電車のつり皮を掴んで、ただ俯いていた。ただそうしてぶるぶると震え、しきりに下で自らの唇を愛撫する事しか私にはできなかった。それは決して口に出す事のできるような類の感情ではなかったのだ。その怒りは途方も無い思考の集積の崩落による津波であり、雪崩である。その流れが私の言葉を押し流して使い物にならなくしてしまった。何も言えなかった。何も言えなかったのだ。

 侵害した者たちの顔は、あの汚れた、不快や嫌悪をもたらす連中とは違っていた。ゴツゴツとして醜く、半ば閉じられた瞳にはギラついた陰惨な光が宿っている。唇の奥の洞穴のような口の中には、獲物に齧りついては残忍に咀嚼して血肉とするような歯が……否、牙が一揃い生え並んでいるような気がしてならない。輪郭はどこか異次元の世界から持って来たかのような言い知れぬ影が宿っていて、まるで生者を祟り殺さんとする死霊・怨霊の類のようだ。
 彼らの恐ろしい視線は、窓外の景色であったり自分の手元足元であったりと、まちまちの場所に向いていたが、そこから発せられる眼光は、直接に眼を合わせないまでも非常な悪意を覗かせているのがよく判るように思われる。
 非常な悪意のこもったその視線は、今は方々の好き勝手な方角へと向けられているが、いずれ一斉に私へと向けられるだろう。それこそが彼らの武器なのだ。どんな槍よりも恐ろしい存在――その視線に射竦められてしまうだけで、きっと私の魂はいずれか異なる世界へと移動する。そうだ、彼らに連れて行かれるのだ。彼らは黒衣こそ纏わぬ、剣も鎌も持たぬ、骸骨の姿をしない、死神だ。彼らは鎌の代わりはあの視線だ。
 私は苛々していた。たださえ領域を無遠慮に侵害してきた彼ら死神に対し、怒りと同時にもう一つ別種の怒りを抱いていた。それは或いは、先に芽生えた怒りと同根の物だったのかも知れない。が、その発祥はもはや全くと言っていいほどに関係が無かった。ただ、私はその燃え上がる怒りと、ブツブツと吹き出るような苛立ちと、その二つが混ざり合う事によって誕生した義憤――第三の感情――が身体を支配し始めていた。
 一刻も早くこの悪意ある死神を追放しなければならない。何としても。何としてでも。こうして私が考えている間にも、死神は着々と擦り寄って来るように思われた。そのシナシナと媚びるような無気味な表情で……私を籠絡しようとしている。私は怒った。今すぐにでもそんなふざけた連中の悪意を撥ね退けるべく、全力を出すべきだった。
 しかし、そうした怒りと正義に突き動かされての行動に、結局のところで移る事ができなかったのは、彼ら死神たちの中に一筋に光明を見たからであった。
 尤も、それは死神たちが私の理解できる善の要素を発していたという事では断じて無い。死者の思考をどうして生者が知り得よう。それは逆もまた然りだ。死神たちは依然、恐ろしく不気味な存在であったし、私もまた死神たちに対して怒りを抱き続けていた。


―――――――

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Last updated  2008.09.16 16:38:53
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