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tartaros  ―タルタロス―

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2008.09.21
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カテゴリ:読書
たまにはブームに(ry
森博嗣「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」(中公文庫)読了。

押井守監督の映画の原作ですね。




何というか不思議な読後感。
上手く言葉で言い表すことが出来ないし、仮に誰かに「内容を要約してみろ」と言われても俺の語彙ではたぶん難しい。
要するに、俺には感想を述べ辛い……。

ただ、何となく「フワフワ」しているような印象がある。どこかに靄がかかったような、薄らとしか視認できないような……。浮遊感?
あるいはそれらは、主人公であるカンナミ・ユーヒチの視点で語られる淡々とした描写ゆえの事なのかもしれない。
どこかに現実感が欠けているような、夢の中の世界を覗いているようなものだ。


戦争を舞台とした物語には英雄が居たり、無残に殺される人々が居る。俺が全ての物語を知っている訳ではないから断言はできないが、そういう事がまま有る。
けれども「スカイ・クロラ」には何も居ない。
ただ人々に平和の大切さを実感させるために企画される「ショーとしての戦争」と、大人になる事無く戦い続ける「キルドレ」と、彼らが戦死するまで生きる、何よりも彼らの日常へと収斂され続ける戦争が在るだけだ。
それどころか、彼らはただそれが日々の務めだから戦うだけ。正義だとか悪だとか、利害だとか思想だとかは介在しない。
「戦争」という行為そのものに何の意味も見出されない。ただ在るだけで、人々はそれを観るだけ、キルドレはそのために戦うだけ。

平和な世界に生きる人間は、何よりも戦争で殺し殺される者たちの姿を見て悲しむ。
そうして「平和は大切だ」と題目のように唱えている。
しかし、彼らが―――我々が何を知っているというのだろう。



「戦うことは、どんな時代でも、完全には消えてはいない。それは、人間にとって、その現実味がいつでも重要だったからなの。同じ時代に、今もどこかで誰かが戦っている、という現実感が、人間社会のシステムには不可欠な要素だった。それは、絶対に嘘では作れないものなんだ。本当に死んでいく人がいて、それが報道されて、その悲惨さを見せつけないと、平和を維持していけない。いえ、平和の意味さえ認識できなくなる。戦争がどんなものだか知らないのに、戦争は絶対にいけないものだって、そう思い込ませるには、歴史の教科書に載っている昔話だけでは不十分。だからこそ、私たちの会社みたいな民間企業が、汚れ仕事を請け負っているわけだよね」(episode5: spoiler 297p)


 戦争反対と叫んで、プラカードを持って街を歩き、その帰り道に喫茶店でおしゃべりをして、帰宅して冷蔵庫を開けて、さて、今夜は何を食べようか、と考える……、そんな石ころみたいな平和が本ものだと信じているよりも、少しはましだろうか。(episode5: spoiler 297p)


たとえモニター越しであれ、新聞の白黒写真であれ、日々報道される戦争の悲惨さに心を痛める事のできる平和な国。平和の大切さを実感できる人々。
人々のそうした心情は、ほとんど無条件で善とされているように思う。しかし、その感情に繋がっているのは確実に「今まさに戦っている誰か」なのだ。
その「誰か」が英雄でも、あるいは無残な戦死者でも、何かを通してその様を観続ける限り、我々はどこまでも傍観者でしかない。

平和を存続させるために、一方では戦争を行う。
そんな、どこか逆説的な世界は決して小説の中だけではないはずだ。
現に、我々はまさにその通りじゃないのか?

傍観者がどんな風に感じようと、今日もどこかで戦争は起こっているし、戦火で人は死んでいく。
観ているだけの人間が何を言っても、外側で何をやろうとも。
ただひたすらに、「淡々」と。
事実だけを見つめるのであれば、そのように言えてしまう。

現実では有り得ない恒常的な戦いを生きる人々にとって、それはいつの間にか日常へと変質してしまうのかもしれない。
彼らの日常に傍観者が何を言っても、それはもはや戯言なのだろうか。





追記

ゲーム化するのか。
開発チームがPROJECT ACESなせいか、「エースコンバット」に見えて仕方がないw














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Last updated  2008.09.21 15:55:11
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