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tartaros  ―タルタロス―

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2008.09.27
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カテゴリ:読書
この記事の追記的なモノ)

この小説の中の大きなテーマとなっている「犯罪者の自由意思剥奪の是非」とは、敷衍して考えてみるならば、いわば現代の司法そのものに当てはめる事も可能だろう。

性犯罪者の住所を公開したり。

去勢処置を行ったり。

あるいはまた、凶悪犯の死刑を執行したり。

厳密な意味ではそれらの例は「自由意思」に関する発想とは違うものかもしれないが、「犯罪者の更生」という側面から考えてみると重なる部分が多いような気もする。
アレックスは国家の手により、まるで拷問のような方法で善良な人間であることを強制された。
それがどんなに恐ろしく、非人道的なものであるか……というのは、出所後の悲惨な生活で強く印象付けられる。そして読者は「やっぱり自由意思は大切だ」と考えるかもしれない。
しかし、アレックスが2年前に暴行した男から復讐される場面で、彼は「それは昔のこと」だという趣旨の発言をしている。

果たして、これが被害者の側から見て納得できることだろうか?

確かに善良さを強制されるアレックスは哀れとしか言いようが無い。
それは確かにそうなのだが、彼がその時に陥っていたのは過去に自らが犯した過ちせいだというのに他ならない。
被害者からすれば、加害者はまさしく不倶戴天の憎き仇に相違ないはずだし、仮に赦すことができたとしても、その胸の内の葛藤など想像するに余りある。
ルドビコ療法がそうであるように、犯罪者に多大の苦痛を強いる刑罰は、しかし、彼が過去に犯した過ちの結果である。

そこで「自由意思」という問題が生じて来る。
善良になるも悪徳を行うも犯罪者自身の自由意思に任せられるとするならば、去勢や死刑など要らないはずではないだろうか。
法による裁きが見つめているのは犯罪者が犯した罪悪であり、その本性に生きる自由意思が善となるか悪となるかという事と完全に重なる訳ではないのである。
本当に自由意思が善良を選択し得る余地があるか? あるとするならば今すぐ死刑は廃止されるべきであろう。
だが、現実は必ずしもそうではないのだ。
死刑をもって臨まねばならぬほど、自由意思など抹殺しなければならぬ程の悪が時として存在しているのだ。
自由意思が人間の精神で大きな意味を持ち続ける限り、そして善悪を選び取るという事が非常に曖昧である限り、犯罪と裁判におけるこの手の議論が終わりを迎えるという事はなかなかやっては来ないのではないかと思う。

俺が死刑制度や性犯罪者への去勢についての意見をここで述べる事はしない(そもそも語れるほど知識が無い)が、少なくとも「時計じかけのオレンジ」のルドビコ療法を批判したその口で、死刑制度や去勢を支持するというのは……何か、大きな矛盾が存在しているような気がしてならない。







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Last updated  2008.09.27 22:45:00
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