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tartaros  ―タルタロス―

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2008.10.16
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カテゴリ:読書
(※読書会レポートです)

>えーっと……もはや言うことはありますまい。
>今回も著者の作品は少ない、希少、そして何より翻訳がない
>ちなみに日本版wikiには載ってません。

>ということで今回は自由です。





「自由」、ということなので、ダニエル・キイス「限りなき慈悲 The Quality of Mercy」(小尾芙佐訳・早川書房ダニエル・キイス文庫『心の鏡』収録)の感想です。





 「限りなき慈悲」の舞台となっている未来社会は、「ディスパッチャー」なるコンピューターに支配されている世界である。いや、支配という表現には多少の語弊が存在している。正確には、コンピューターに人間の生殺与奪の権が握られている世界なのである。
 同時に、この世界は宗教が死んだ世界でもある。人々は核戦争の炎の中で神に絶望を覚え、生き残った人々もその多くが自殺した。後にこの時代は「自殺の時代」と呼ばれ、限り有る人命を有効に活用するために、社会の支配者たちはコンピューターに人命の管理を任せるようになったのだ。
 さて、このコンピューター=ディスパッチャーは、「人間に支配されている」ようでいて、実際的には巧妙に「人間を支配している」。導入当初は機械に命を預けるのに不安を覚えた民衆は武力闘争によってディスパッチャーを排除しようとしたが、逆にディスパッチャーが主導するロボットによって鎮圧されてしまった。それ以降自殺は一件も発生していないという。
 コンピューターが人間の生死を管理する時代が到来したのである。
 少なからず社会の上層部の意を受けて誕生した、それがディスパッチャーである。「彼」はコンピューターであるから、その都度もっとも合理的と思われる判断を成す。その判断は一人の例外も有り得ないのである。たとえそれが、自らの開発者の家族であってもだ。
 それでも、その段階ではディスパッチャーは完璧なものではない。劇中の説明に拠れば、「研究、監視、管理部門以外の決定はすべて」ディスパッチャーが行っている。何故なら「彼」は機械だからである。機械だから、コンピューターだから、物理的には自らの創造者である人間に従わなければならなかった。
 けれども(それは一読して容易に判別し得る事ではあるが)、精神的には人間、とりわけかつて自分自身の導入を決定したであろう社会の上層部を従属せしめているように読み取れる。もともと人間の意志によって生み出されたのが、生命を管理する役目としてのディスパッチャーであったという事実を思い出してもらいたい。
 つまり社会の上層部がディスパッチャーを導入し、自らの政策の正しさを盲信し、ディスパッチャーが為すところの正しさを信じつづけている限り、彼らが生み出した生命の管理人・ディスパッチャーは社会の上層部を自らに従わせる事が可能となる。
 彼らは自分たちが生み出したものだから、当然ディスパッチャーは人間のために在る、人間のための物と考えているであろう事も想像できる。しかし、彼らが抱くそ正しさへの盲信こそが、ディスパッチャーの決定を常に支持し続ける。それはもはや、ディスパッチャーの意のままに操られるにすぎないのである(ただし、民衆はこの限りではない)。
 知らず知らずのうちに機械を「使う側」が機械に「使われる側」へと変転してしまっていたという歪な逆転現象を見る時、俺は手塚治虫「火の鳥 未来編」を想起せずにはいられない。「火の鳥 未来編」はコンピューター(作中では“電子頭脳”と呼称)に支配される未来世界の滅亡と再生を描いた漫画作品であるが、この作品でも社会の上層部はコンピューターの決定は常に正しい、間違っていた事は一度も無いと考えている。そして、最終的にはコンピューターの意思に従って核戦争が始まってしまうのである。
 これは、もはや「独裁」である。
 社会の上層部ではない。コンピューターによる独裁である。
 彼ら「社会の上層部」が、国民の信託を受けた形で……すなわち民主主義的な手段によって選出された人々であるなら、ある程度民衆の意思は反映される。
 けれども、彼らが自らの意思を――ひいては人間さえをも――超越する絶対的な「正当性」の化身として何者かを選び出して社会の最上位に推戴してしまった時、その時こそ独裁者の誕生は成る。
 それがコンピューターだった場合、どうなるのであろう。
 すでに何度もこの文章で書いたが、コンピューターは物理的には人間に従属せざるを得ない。だが、当の人間たちがそのコンピューターが行う政策に対して絶対的正当性を認めてしまったとき、人の手で造られた理性と正当の権化たる「絶対に正しい」存在であるコンピューターは、精神の上で人間を従属させるのだ。
 あるいは、コンピューターはただ判断を続けるだけの機械の箱であって、人々は自らが産み育てる正しさの幻想に従属していると言い換える事も可能だろう。
 「独裁」という政体を長期に渡って安定させるためには、反抗を許さない強固な社会体制と同時に、民衆に正当性の幻想を植え付ける事も必要であろう。だが、その幻想がいわば上から押しつけられた形であればいつか破綻の時がやって来る。だが、人々が自発的に幻想を抱いている、幻想を捨てようとしない限り、独裁は続くと言えよう。しかも、この空想されたディストピアは、なまじ間違う事の無いと思われがちなコンピューターによる独裁だからこそタチが悪い。
 物語の後半において、ディスパッチャーにはある致命的な欠陥が存在し、そのために今まで重大な過誤を何度も仕出かしてきたことが明らかとなる。主人公の弟はその事実に気がついて爆弾でディスパッチャーを破壊するも、逆にディスパッチャーの内部に存在していた欠陥は取り除かれ、ついに人間による管理を必要としない完全なコンピューターが誕生してしまう。
 ついに精神的のみならず物理的にも人間から独立した、両面的な支配を可能とする存在が出来あがったのだ。それは既に人間に手出しできる範囲からは逸脱してしまっている。もはや超越とする表現の方が相応しい。


「あんた、自分のしたことがわかってるだろ? 人類史上はじめて、人間は自らのために神をこしらえた、自分の好きなときにスイッチを切ったり入れたりできない神をだ!」 
(p102)


 「神」というものが人間の発明に過ぎないと考える事もそもそも可能だろう。しかし、人間がその空想かもしれない存在を如何様にも解釈する事によって宗教は誕生し、発展してきたのである。
 「限りなき慈悲」の世界においては、すでに宗教に対する信頼は失われている。唯一神的な絶対性、人間にとって「解釈」が可能でも「変形」が不可能な絶対性を持つ神が消滅した世界において、今や新たなる神となり得るのは、人間には手の届かない存在へと進化して、人間には覆し難い裁定を行うディスパッチャーだけなのだ。
 独裁者から神へと進化したコンピューターが生殺与奪の権限を握った世界。それは統治であると同時に宗教でもある。人間からの手出しが可能な独裁者から、手出しの出来ない神へ……さらにはコンピューターに対する絶対的正当性の幻想をもまた人々が共有しているという事は、ここに新たなる宗教が誕生してしまったのにも等しいのである。
 この新時代の宗教には神の意志を仲介する聖職者や宗教者の類などは必要ないだろう。ディスパッチャーという神の見解は「いつだって正しい」。そしてその意思は人命の管理という形で常に具体的に示される。
 一体どうしてあやふやな人間の意志など介する必要があろうか? 
 全てを自前で間に合わせる事の出来る神様にとって?



 
 これは最後ではないのだというひそかな願望とともに彼は思い出したのである。ほかのひとたちの肉体のなかで、彼の肉は生きつづけるということを。そして魂は? 心の奥底のどこかで、彼は昔読んだことのある一文を想起して、それが現在の情況にあてはまるような気がした。“ディスパッチャーがドームにあるかぎり――世はこともなし”
(p105)





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Last updated  2008.10.16 23:58:04
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