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tartaros  ―タルタロス―

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こうず2608

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2009.01.23
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カテゴリ:小説紛い
 時には、人混みの中で傘を振り回したくなってくる事もある。そうして誰かを打ち据えたくなってくる事もある……。
 そうした想念を抱くのは、彼にとっての極く何気のない日課だった。誰しも心の中では何らかの欲求を持っているのだろう、その欲求をどうにか封印しなければ人間社会は立ち行かなくなるだろう。いわば虫けらを引き千切る子供と、そうした無邪気な虐殺を嫌悪する大人との違いなのだ。子供の世界では、知らず知らずのうちにあって全ては侵入されている。子供自身が、自らの手でそうしているのだ。彼らはそれと知らないから。ただひたすらに彼らの「遊び」を繰り返す日々を送っていられるに違いない。大人は不幸だ、子供に比べて、けれども。と、彼はそう思っていた。
 湧出する欲望を現実に顕現させるだけの手段を持ち得ているにもかかわらず、どこかの誰かが創ったのか――成文なのか、慣習なのか――それすらも解らないままに、いつの間にか空想に囚われる事を良しとするようになっていく…………しかし、彼自身もまたそうである以上、誰に文句を言っても始まる事はないのであった。否、だ。そうした文句を言い表す事、疑問を呈する事そのものがイケナイコトなのだ。いつの間に、俺は虫けらを面白半分に殺す事をイケナイコトだと思い始めたのだろうか。十か、十五か、それとも二十歳の歳だったろうか。ただ彼の心のうちでは、そんな益体も無い問題提起が次々と繰り返されるばかりだった。誰が答えるでも無かった。口に出しもしないのだから当然なのだが、しかし、彼はそうした自分自身のいささか子供じみた反逆の色を帯びた悪戯心、と言うべきか、それとも現実味の無い夢想と言うべきか。つまり、そうした益体も無い考えを起こし起こし街を歩き回る事を、一種の楽しみとしていたのには違いなかった。彼の止め処もない夢想の欲求と、それを如何にも正当性の衣を帯びているかのように裏書きする自己への問答は、堪らない快感なのだ。それは、もしかしたら自慰に似ているのかもしれなかった。自らの秘めたる心棒を一生懸命に動かし回り、そこから得られる気持ちの良さ。そんな物には得体の知れぬ芳しさがあるのである。だが――「あの後」に訪れる奇妙に落ち着いた感覚が。それこそ生への最も先鋭化した形態である自慰の後に訪れる亡者じみた静寂を、彼は日々のルーティンとしているこの思索・夢想には求めようとしなかった。それは、すなわち「死ぬ」事だったからである。放出するという行為それ自体が、生の持続と同時に放棄への意思表示であるように、彼にとってはその思考に何らかの結論を賦与してしまう事は、絶頂に達して衰えゆく快楽と全く同義であった。ただでさえ「行為」は自殺めいた暗さを湛えた、もの悲しい運動だから。むしろ彼は、自ら意図して心内の議論を打ち切ってしまうきらいさえもあった。後に残るものはただ何かをしたい、「侵犯」をしてみたいという欲求だけなのだった。思考へ陥るそもそもの原因である欲求、その元来の立ち位置へと戻ってしまう堂々巡りなのだ。そうした連環構造に支配された彼の日常を、彼は愛していた。やはりと言うべきか、そうして「侵犯」への欲求もまた彼の愛情の対象であった。
 それだから、彼はまた欲求する事を愛しながら欲求する事を続けるのである。人はみな彼の事を純真な青年だと見るであろう。真面目な人物だと思うであろう。その見立て、というのは強ちにおいて決して間違ってはいない。間違ってはいないけれども、何も無いと思っていた平穏な草原に開いた一つの穴が危険さをもって恐れられるように、彼のような思考や欲求するという事もまた、恐れられこそしないまでも、何らかの異質さといってものを発揮する事であろう。何かを志向するというのは、ただそれだけで何も思考しない人々を凡俗な連中だという考えに至らせかねない。たとえその志向そのものがどんなに畸形であったとしてもである。彼は、そうした少々の畸形をもって自らの異質を自認する人物だった。
 けれども、と、彼は思う。
「俺は――――――もしかしたら、何とも変わりようの無い人間なのかもしれない」
 詰まる所、彼は気が付いていたかもしれないのである。殊更に何かを志向する事で他人を上から睥睨してしまうというのは……自分もまた他人と同じく凡俗だからではないか、という点にである。つまり、彼は志向する事を志向していたのかもしれない。異質さの認識という点で、彼は自分自身を他人とは違うと考えたがる、どうしようもないもう一つの欲求を持っていた。ともすれば自らを一種の病者とでも吹聴したくなるような。そうする事で他人から何かと思われたいというような。それは、ただ虚しいだけの努力だった。そうして、それもまた自慰に他ならなかったのかもしれない。睥睨こそが、精を出し切る事の代替だ。あの落ち着きこそは、この自らの空虚さへの気づきかもしれないのだ。
 雨上がりの道をスタスタと歩きながら、彼はやはり虚しかった。水たまりに落ちた赤茶色の葉っぱが嗤っている。パシャパシャと、まるで水を足が跳ね付ける音が銃声のように彼の全身を撃ち抜いた。誰も居ない、周りには誰も居ないのである。ああ、何て恥ずかしい! と、彼は叫びたい気分になった。俺は楽しいけれども、けれども、けれども……それは。日課だけれども、きっと…………。この快楽と自己への嫌悪こそが彼、という人間に他ならなかったのであった。
 これより数十分前に、彼は電車の中で少女を視た。後姿、だった。顔は視えぬ。ただ、後姿のみが眼前に在った。ゴトゴトと揺れる電車はそろそろと冷え始めた季節を反映して暖かかった。彼は吊革に右手を引っ掛けながら、その少女をジッと凝視していた。歳の頃は十四、五だろう。何て「可憐」なのだろうか――否、否、「可憐」であるに違いないのだ。そうであった方が、俺に相応しいのだから。彼の想念の中では、少女こそは恋人であった。電車の中で、つまりは衆人環視の中で彼女を抱きしめてみたい。そんな欲求を感じた。彼の日課が立ち現れた。彼は少女に恋の芽生えるのを感じていたのであったが……結局は虫と同じであったのかも知れない。今朝に、人身事故で電車が停まったという報せを聞いていたのを思い出す。もしかして、この少女が? そうかもしれない? であるならば、ここにこうして立っていてはならない、彼女は今、生きていてはいけない人間なのであって、だからここには「居る」のではなくて「在る」のだ。そう、これはきっと、少女の姿をとって現れた肉の柱。本当は血塗れで、手と足は逆さにくっ付いている。黄色い脂肪と紅い血液をよくよく塗布して、腸と脳味噌と眼の珠で飾り付けられた。その作成者は俺で、俺が、俺は駅のホームで彼女を突き飛ばしたんだ、電車が来るのを見計らって。綺麗だったなァ。まるでクリスマスのイルミネーションを思いっきり派手にした赤さだったよ。そうなると、彼女は今、死体なのか、それとも亡霊や幽霊の類なのか。どうだろうか。
 その時、電車はゴッ――トンと大きく揺れた。瞬間に、彼の手が少女の手に触れた。
「あ、すいませ……」
 また大きな音が鳴り、謝罪の言葉は掻き消された。同時に彼の抱く所であった想念はたちまちのうちに消え始めた。あの虚しさが襲ってきた。彼の放出した汚らしい体液、それが少女の手にこびり付いてしまったかのような不安に駆られた。
 彼はまた何とか夢想をしようと画策していたようであったが、今度のそれには忌避が鎌首をもたげ始めて来た……もうすぐ自己への嫌悪が始まるであろう事が、彼には、はっきりと予想できた。

















六割くらい勢いで書いたので推敲無し。





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Last updated  2009.01.23 23:18:31
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