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tartaros  ―タルタロス―

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2009.07.04
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カテゴリ:時事ネタ
仙台駅西口で、面白い人を見かけた。

 大都市圏というのは言うまでもなく人が多いから、大多数の「普通の」人に混じって、「奇矯な」人だとか、「変わった」人も頻繁に見かけることができる。今まで実際に俺が目にしたところだと、路上で自作のアクセサリーを販売する職人。詩を書いた色紙を売る詩人。路上ライブを敢行するアマチュアバンド。布教活動中の宗教団体。果ては托鉢をしている僧侶など。
 人口という母集団が地方の小規模都市に比べると圧倒的に大きいのだから、その中に少し蔵変わった人が居ても何らも不思議ではないのだが、今日、見かけた青年に対しては、何か他とは違うものを感じたので備忘録代わりに書いておく。

 パッと見た感じでは二十代前半の青年。髪にも衣服にもきちんと気を使い、地面に座って形態をいじる様はまさに今時の男子学生以外の何ものでもあるまい。
 けれども、その男子学生風の青年をして異様たらしめているのは彼が掲げている紙だった。何かの広告かチラシの裏の、白い部分にペンで文字が書き込んである。あまり太い文字ではなかったので近くまで寄らないと見えづらかったが、それには次のように書かれていた。


「やりたいことや生きる意味が見つかりません。参考にしたいのでお話させてください」


 …………。

 いわゆる“自分探し”の旅に出る若者が多いとは聞くが、路上で自分探し実行中の人物が居るとはまさか思わなかった。 
 俺が見たところではこの青年に声をかけている人は居なかったようだが、果たして彼が誰かから話を聞いたところで「やりたいことや生きる意味」を見つけることができるのだろうか?
 彼の耳朶を打つのは、所詮、誰かが自分を自分たらしめる他人の思想である。それを彼が身の内に加味しても、借り物の言葉が彼の精神を充足させてくれるとはどうしても思えない。参考にするとは言うが、他からの借り物を咀嚼することに失敗した後で蓄積するのは無残な残骸だけである。
 結局のところ、生きる意味などというのははっきりと定義されてはいず、個人にその判断が委ねられなければならないから(社会によって定義されてしまえば、それはもはや全体主義だ)、彼が人と対話する中で本当に生きる意味を発見できるのか、不安は残る。もっとも、この地上に生きる大多数の人間は賢者・賢人になることはできない。だからこそ時には他に頼りつつ自らの手で模索していかねばならない。それが他者の言葉であれ、史上に刻まれた思想であれ、衝動を揺り動かす音楽であれ、心を震わす文学であれ、何も無いまっさらな状態を確固たる自己たらしめるの大部分は先達が築き上げてきたものに拠るのである。彼を彼の望む――とは言っても、彼自身が望むものが無いことに苦悩しているのであろうから、真に彼が満足できる境地に「導くもの」は本来的に有り得ないのかもしれない。
 与えられたものをそのままに飲み込むに非ず。
 咀嚼することで、我々は自分自身の血肉を造り上げていくのだ。

 あの青年が、「やりたいことや生きる意味」とやらを見出す……というよりも作り上げるのに少しでも有益な出会いが訪れることを願ってやまない。
(って上から目線で何を書いてるんだ俺は)






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Last updated  2009.07.04 23:21:28
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