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カテゴリ:読書
ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(竹山道雄訳・岩波文庫)読了。
作者曰く、「もし生涯に『ウェルテル』が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」そうだが、俺は別に自分のために書かれたようには感じなかったので、どうやら不幸な人間らしい。 それはともかくとして、これは非常によくできた小説だ。 親友の婚約者に恋慕する悩み多きウェルテル青年が、苦悩の果てにピストル自殺を遂げるまでの物語である。著者たるゲーテの失恋体験が色濃く反映されていると言われており、もはや病的なまでにロッテ(つまり、主人公の片思いの相手だ)への恋情を燃やす様は、何か一つに専心し続けるものしか持ち得ない熱情の化身であろう。 さらに特筆すべきは、ときおり挿入される情景描写の細密さと美麗さであるかもしれない。人間の想像力が、自然の風景をここまで文字に表現し得るかと読んでいて感嘆せざるを得なかった。 ところで、自殺するまで何かに苦悩するというのはひとえに若者である故なのだろうか。死を眼前にするほど何かに身を焦がした経験の無い人間としては、ウェルテルの思考は理解し難い部分がある。けれども、常に自分自身を新たにし続けなければならないのが若さとすれば、ウェルテルの失恋は古い世界が完全に破壊され、かつ修復不可能なほどの甚だしい苦痛にほかならなかったのかもしれないのだ。 この作品がヨーロッパで大ブームになった当時、青年がウェルテルを真似てピストル自殺するという事例が相次いだらしいが、何か崩壊寸前の自己の認識にさらなる確証を与えてしまうものが、この小説には蔵されているのかもしれない。 少なくとも、哲学的煩悶であれ恋の悩みであれ、弾を込めるべきピストルも、飛びこむべき華厳の滝も、見出せないまま大人になる人間の方が遥かに多いのだとは思うけれど……。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.10.19 22:51:27
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