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tartaros  ―タルタロス―

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2009.10.30
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カテゴリ:読書
 カミュの戯曲「カリギュラ」を読んだ。

 
 物凄く適当に要約するなら、中二病の皇帝が人生の意義を見出そうと悪戦苦闘する話――では、ないか。さすがに。


 難解な物語だと思うが、巻末に付された解説を手掛かりに考えるなら、主題は人の生きることにおいての不条理なのだろう。その不条理とは、「人生に意味は無い」という、虚無的なものになる。
 主人公であるローマ帝国皇帝カリギュラは、実在の人物である。
 帝国臣民を殺し、財産を奪い、近親相カンや不義密通を楽しみとし、自らを神とさえ称した末に……最後は、彼の傲慢さを疎んだ親衛隊の裏切りにあって暗殺された。

 さて、戯曲においての彼は、ひどく孤独な「闘い」を世界に向かって挑もうとしている。
 むろん、彼は上述の如く悪行を重ねに重ねて最後には暗殺される。それは不変である。しかし、彼が求めたのは個人だけの歓楽でなく、人が生きることにおいての意義を、放埓な残虐さの中から見出すことだった。
 カリギュラ帝は実妹であり愛人でもあったドリュジラの死をきっかけにして、天空に掛かる月を地上にもたらそうとする。この世界に生きるのはあまりに虚しい。だから、そうした幻にさえ人間はすがらねばならないのだという。彼は、真の苦しみとは苦悩の永続性が存在しないという事実に気付く事だと唱える。故にそこに意味は無く、「真実など存在しないのが真実」なのである。
 虚無を見、虚無に相対したカリギュラは、やはり史実同様、家臣に裏切られて殺される。他者が目を逸らすもの、無意識のうちに折り合いをつけているものにあえて立ち向かった皇帝は、もはやその酷薄な行為のために暴君以外のなにものでもなかったから。
 けれども真実の不在ということを抉るような悲痛から飲み込んで、世界に知らしめようとしたカリギュラは、剣を自らの身体に浴びせかけられもなお確かに「俺はまだ生きている!」と絶叫したように、明白に『存在』しているのである。
 人の一生は、真実の不在を飲み込んで『存在』することしか許容されないのである。
 それこそが本作「カリギュラ」の主題であり、痛切さから目を逸らし、そのために人間の意義について苦悩する者に向けた、“狂った”皇帝の思想だったのではないか、と、思う。

 





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Last updated  2009.10.30 22:38:34
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