ヤマハのデジタル・サウンド・プロジェクター、YSPというものがあります。かつて、ビジュアルグランプリの賞を獲得していたりしています。
YASシリーズとは、その原理が大きく異なるので注意が必要です。
サウンドバーの説明で、「ビーム」とか「サウンド・プロジェクター」とかいう単語がある場合は要注意です。
YSPは、フロントサラウンドでありながら、「リアルサラウンド」ということですが、ちょっと、何を言っているのかわからなかったりするかもしれません。
簡単に言うと、音のビームを部屋の壁に反射させて、壁からの反射音で聴く人を包み込む、という作戦のサウンドバーです。
最近だと、立体音響用に、天井に音を反射させて天井設置スピーカーの代わりにしようという作戦がありますが、YSPは、リアスピーカー、サイドスピーカーの全てを壁からの反射で表現しようという、とても意欲的な作戦です。
「壁から反射した音もリアルな音だ」ということで、「リアルサラウンド」と言い張っているのです。
壁から反射した音を聴くことになるので、「ピュア・オーディオ」といったことからは大きくかけ離れています。
「いい音を聴きたい」という用途には全く向いていないでしょう。「クリアなサウンド」などは期待できません。
なお、現在、主流となっているフロントサラウンドのサウンドバーは、HRTF(頭部伝達関数)を利用して、音の周波数やタイミングなどを調整して、サラウンド的な聞こえ方を演出するという作戦です。この作戦だと、部屋の形状や家具の配置による影響をあまり受けません。
サウンド・ビームを壁に反射させるというYSPの原理からすると、その音質は、設置する部屋の形状や状態、壁の材質などに大きく影響されると考えられます。つまり、音響効果、音質は設置する部屋の状態次第です。
幅3m~7m、奥行き3m~7mくらいで、視聴者の左右と背面が壁になっている部屋でないと、「十分な効果が得られない」ということらしいです。狭い部屋はもちろん、広すぎる部屋でもだめです。
後方の壁からの距離も必要です。壁からの反射を受け止めるために、利用者は、左右や後方の壁から離れた、部屋の中央付近にいる必要があります。
かなり、リスキーなサウンドバーと言えるでしょう。製品開発用リスニングルームの環境で技術者がサウンドビームで遊びながら開発した製品なのかもしれません。実際のリビングルームを想定して開発したものとは思えません。
大きさの条件や3方向が壁面であるといった条件を満たすのは「専用のシアタールーム」ということになるのかもしれません。例えば、窓のある部屋で、窓にカーテンがかかっている場合、少なくとも窓のある壁面を背にしてYSPを設置したほうがいいということになります。
マイクを用いた初期設定で、部屋の状態に応じて音響を最適化することになっていますが、YSPと壁の間に家具などがあると、YSPの本来の効果を得られないことになります。
部屋にテーブルとイスがあるだけで、サラウンド効果が得られないでしょう。テーブルはビームを通すそうですが、椅子はビームを妨げるでしょう。
部屋の形状や家具の状況を考えずに、生活感満載の部屋用にYSPを購入してしまったという場合は、テレビ上に設置することで、音のビームが壁に届きやすくなって、音響の改善ができるかもしれません。
例えば、テレビ裏にある壁掛け設置用のネジ穴が空いていれば、L字型のカラーアングルという金具を取り付けてテレビ上の棚を自作することができます。
50インチ以上のテレビであれば、900mmのカラーアングル2本、L字金具2個、M6ネジやM5ネジ(テレビによってネジ穴サイズは異なる)、ナットなどでYSPをテレビ上に設置できるようになるでしょう。
テレビ裏の壁掛け用のネジ穴を利用して支柱を2本取り付けて、その支柱にL字金具(150mmくらいのもの)を取り付けると、YSPを置けるようになります。
結束バンドや釣り糸などを駆使して、YSPと支柱などを固定し、地震対策をお忘れなく。
YSPを置かずに、木材の板をボルト留めしたり、バーベキュー用の「焼き網」のようなものをL字金具に取り付けたりすれば、小物を置く「棚」にもなります。
下記のような既製品の「テレビ上の棚」もありますが、耐荷重から考えるとカラーアングルで自作したほうがいいでしょう。また、画面サイズが55インチくらいのテレビの場合は900mmくらいの支柱でないと縦に2カ所のネジ止めができないはずです。
テレビの大きさ、テレビのネジ穴の位置などをよく確認してから購入しましょう。 |
YSPのような製品は、家具などがないリスニングルーム用といってもいいのかもしれません。家具などが満載の部屋や小さな部屋などには向いていません。
リスニングルームで、サウンドビームの角度をいじって遊ぶための製品のようです。
でも、リスニングルームがあるのであれば、本当のリアスピーカーを設置すればいいので、YSPの中途半端さは半端ありません。
「リスニング専用ルームがあるが、フロントサラウンドにしたい」というニッチな需要向けと言えるでしょう。
さすがに、ヤマハもそのことに気づいたのか、最近はYSPではなく、YASシリーズを中心に販売しています。近い将来、YSPの製品はなくなるかもしれません。
リスニングルームや設置に適した部屋がないのに、YSPを購入してしまったという場合は、テレビ上の見通しのよい位置に置くことで、少しは音質が改善するはずです。
さらに、音響用反射パネルなどを部屋の随所に設置するようにすればいいのかもしれませんが、そこまでするのであれば、リアスピーカーのあるシステムを組んだほうがいいでしょう。
55インチクラスのテレビだと900mmくらいの長さが必要になるでしょう。 |