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カテゴリ:語学
プサンに住んでいたある秋の日の夜、
私は家の中で暗~~い顔をしていた。 テレビもつけず、シンとした部屋で、一人悶々としていた。 その日、プサンでとあるイベントがあり 私はカメラ係りを仰せつかっていたのだが、 大事なところで大失敗をしてしまったのだ。 渡されたカメラがごく簡単な作りの簡易カメラで (写るんですではなく、フィルムを入れるタイプ) とにかく シャッターを切っても手応えが頼りない。 フィルムが巻かれてないかと思ってそ~っとフタを開けてみたら、 巻き込んで動かなくなっていた上、感光してしまったのである。 あり得ないミス・・・ フィルム1本分まるまる失敗してしまった・・ こんなことなら、自分のカメラを持っていけば良かった・・TT 「もう1個のカメラはちゃんと撮れているから大丈夫だよ」 他の人に慰めてもらったが、 大事な所での大失態、申し訳ないやら悔しいやら・・ せっかくのカメラ係りだと思って張り切っていたのに、 しかも、カメラの腕にはちょっとは自信があったのでよけいにショックだった。 頼まれた仕事を果たせなかった後悔とショックで、 気持ちはズン・・と沈んでしまった。 1人、暗い顔でボ~としながら なんとなく携帯をいじって、普段は掛けたこともないEさんの 電話番号を押していた。 どうしても、この 落ち込んだやるせない気持ちを誰かに聞いて欲しかったのである。 果たしてEさんはすぐに出てくれたが、 ちょっと驚いていた。 「お、どうしたんデスか!」 「すいません、突然に・・いや、ちょっと今日、いろいろあったんですけどね 失敗しちゃって・・ Eさん、ちょっと、聞いてもらえる?」 「そうですか、ちょっと待ってください、今からそっち行きます」 「え・・?えっ!?いや、そんな、いいよ!そんな大したことじゃ・・」 「いいですから。ちょっと待っててください、じゃ!」 「Eさん!? あ、アレレ?」 ツー ツー ツー・・・・ なんという、早業とフットワークの軽さであろうか、 見れば時計は10時半を回っていたと思う。 ちょっとグチるだけのつもりが、まさかこっちに来るとは思わず、 なんか申し訳ないな・・と思っているうちにピンポ~ンとベルが鳴り、 玄関にはEさんが立っていた。 「コンバンハ~」 「ゴメン、Eさん!私がこんな時間に電話したから・・><」 「大丈夫ですヨ!^^」 「とにかく、上がって」 「いや、こんな時間に上がるのはよくないんで、どっかサテンでも行きましょう!」 「え?・・」 「いいからいいから!」 なに~~~??紳士じゃん Eさんたら~~~~!!!(><) 若いのに、こんなことに気が付くEさんに ちょっと、いや かなり感激する。 Eさんは乗ってきた自転車をうちのアパートの下に置き、 二人して海岸沿いをてくてく歩きながら深夜まで開いている喫茶店を探した。 プサンの海岸の周りは、観光地なので夜通しネオンが煌いて、 いろんなお店がひしめきあっている。 が、私は夜にあまりそこらのお店に入ったことがなく、 それらしきお店かと思って二人で入っていくと 怪しげなBarだったりして、慌てて断って二人で逃げてきた。 「なんだ今の~??@@;」 「たぶん、すごくボッタクられる気がする・・@@;」 Eさんが、お店の人に早口の韓国語で怒涛の如くなにか喋ってくれたおかげで ボッタクリ・バーに入らずに済んだ。 その後、 通りに面したケーキ屋さんを見つけ、そこでお茶をすることにした。 Eさんが適当になにか注文し、しばらくするとそれらがカウンターに運ばれてきた。 カフェラテとカフェモカに、ショートケーキが一つ。 どれもこれも韓国らしいビッグサイズである。 「ケーキは大きいから1ヶにしましたよ、二人で食べましょう^^」 韓国人は分け合って食べるのが大好きだ。 それがたとえ、ただの友達でも。 私はEさんとケーキを突きつつ、話を始めたのであるが、 途中からEさんが、 「ボク、この生クリームがあんまり好きじゃないんデスよね~~´` これ、○○さんが食べてください」 と言ってスポンジの部分だけをパクパク食べ始めた。 私の話が終わる頃には、 生クリームだけが残骸のように皿の上に乗っていた。 「え~~!これ、食べるの?これだけって、Eさんひどくないですか~~!?」 「あはは~~^^ま、いいじゃないですか!」 「よくないよ・・・TT」 「おいしいデスから!」 「じゃあ、アンタなんで食べないの・・TT」 「胸焼けするんデスよ~」 「それは私だよ・・・TT」 そんなこんなのバカなやり取りをしていたら、 私の今日の落ち込み気分はどっかへ行ってしまった。 「じゃ、そろそろ帰りましょう」 時計を見るともう12時をとっくに過ぎていた。 私はお店の営業時間が気になってEさんに聞いてみた。 するとまたもやEさんが聞き取れないぐらいの早口でお店の人と会話した。 「なんて?」 「営業時間過ぎてるけど、別に構いませんよ、って。^^」 「なんてアバウトでいいんだろう、韓国って・・><」 「それが韓国のいいとこデス!」 お会計は全部Eさんが持ってくれた。 それから二人で来た道をまたてくてくと戻り、 道中、彼の(韓国人の)価値観などを聞かせてもらった。 10分ほどでアパートにたどり着いたが、 私はこんな時間まで付き合ってくれたEさんにこのまま帰ってもらうのは悪い気がして ちょっとそのまま待ってくれるよう引き止めた。 「Eさん、うちにEさんの好きなリンゴがあるから持って行って、 すぐ持ってくるから」 が、こんな時のEさんは引き際を心得ていた。 「いや、いいです今日は。帰りますよ^^」 「え、でも・・」 「また金曜日ですね、じゃ、おやすみなさい!」 「うん、今日はありがとう」 そしてEさんはアッと言う間にチャリンコで走り去ってしまったのだが、 私はEさんの「とことんまで」という韓国人的懐の深さと いろんな意味で情に厚い韓国人気質を、思いがけずその日実感することになった。 もちろん その日失敗した暗い気持ちは、 皿に残った生クリームと共にカフェラテで胃袋に流し込まれた。 以来、 大ぶりなショートケーキを見ると、 苦笑と、胸焼けの気分と共に、Eさんとの プサンでのこの出来事を思い出してしまうのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年01月16日 17時25分52秒
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