北帰行
ゴトリ ゴトリ と鈍い音 真夜中 汽車は走る 山形むけて 俺も一緒にはしってる 誰もしらない北国に 我が地盤をばかためんと ズーズーしゃべる者達の 異卿に来たと知らせてる 寒い寒いと聞かされて 着るだけ着物をかけたれど 車中スチーム、人いきれ 一枚、二枚ストリップ 映画のような姉さんが あくびしながら時計見る おめめは 重りをつけている 見てたらあわててハンケチで お顔につけて眠り顔 時は午前一時半 窓は黒黒、まあるで墨を流すよう 止まる駅名が変になり カマスザカまで飛び出した 外は静かな雨模様 駅のあかりで照らされた 濡れたホームの石畳 小さな雨がはねている 前のおっさんお口をば 大きく開けて眠ってる 姉さんさすがだその調子 お顔は大事に隠してる 昨日の昼は銀座をば 肩をいからしさっそうと 歩く姿もハイヒール モンロー風に歩いたね 車中はまさに天下泰平 あたいも一つ眠ろうか 時はすでに午前二時 時は流れて午前四時 空気冷却一変す 北国突入思いしる またもや一枚、二枚カムバック 白河夜船も通り過ぎ 車中は死せるごとくなり 映画の姉さん何ものと 帽子も服もニュウルック アミダ夜会のエンビ服 開いたお口はアクビのためさ 抑えたおててモアケセサリー 鼻やら目やらさすってる 隣のおっさんねとぼけて さあ着いたぞと降りはじめ なあんだ小川かとまた座る それから四つの駅を越す 彼はまたもや夢の国 いずこの国へ行くのやら 野番の駅員ねむそうに かんてらさげてあるいてる 2燭光電気の駅員室が なぜか心に淋しく映る 東の山ぎがあかるくなって うっとりぼんやり幽めい界 あすの9時まで汽車の中 (1954・3月12日記) 69年の歳月がたった。南の端から山形までよく決心したものだ。 このスタートがあったらばこそ、今の自分がいる。人の通らない道の経験積んで、良き父、母、兄弟姉妹に恵まれ、そして現在、新しい地で良き伴侶をえて、良き子等ができ、孫も優秀な仕事にそれぞれついてる。 遠いところに行った子を親の立場で考えてその気苦労に馳せ、考え感謝したいと思うこの頃である。亡き父母、亡き姉、亡き妻を思いて捧ぐ。