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「先生はわたしのこと綺麗だと思っていないんでしょ」
「そうはいってはおらん、その怒った顔でさえ美しい」 彼女のかかえこんでしまった儚い美についての矛盾は、その美しさを彼が愛しているに違いないと確信すると、その衰えとともに、不安になり、美を思いのままにしていた時代のてらいが、消え去っていることに愕然としていた。 ある週末の午前中、突然彼女がおとずれた。 「月下美人を持ってきたわ」 「美人が美人を持ってきたのか」 「、、、」 そのけなげな紫の花を窓辺において、彼女は食事をつくるといいだした。「今日は先生のお誕生日でしょう」 「そうか、わすれていた」 和室にゆうげがととのえられた。 「これはなに」 「月下美人よ」 漆塗りの椀の吸い物にうかんだ紫の月下美人のはなびらを、どまどって見つめていた。 「これたべていいの?」 彼女はあの気配で彼を見つめている、ただためらうだけの、そういった時間の流れのなかに。その食事の彼女の意図をはかりかねて、ただ躊躇っていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Feb 26, 2006 09:51:18 PM
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