カテゴリ:だから
@旧家の米問屋に生まれた男の華麗な恋と愛の人生の物語
女は尼をしていた。 ーーー
その寺は幼いころ訪れたことがある東山の麓の中ほどにある質素な寺だった。
「わたくしこのような本をだしまして」 その風呂敷からとりだした本を高橋に差し出すとき、その女は、高橋の手を握ろうとして、本を床に落とした。 「あたたかい、あたたかい」 高橋の手をつつむように、そうゆっくりと女は二度つぶやくように言った。高橋は朝日のまぶしげな視線のなかに、ただされるがままに、その女の視線をみていた。 年のころは45歳ほどの、色白のほっそりとした、尼僧は、のちにその行状を明らかにしていくことになる。 庭男が同居して女たちをみたしていた。それは耽美なタブーの秘められた公認の事実だった。
この京都で谷崎を掘り出した女、それは木綿問屋の家業を若いころから呉服屋として事業化に成功させた若い女性企業家だった。 戦後株式会社化し、その社長におさまると、栄華を極めた。 南禅寺に別荘を構え、夜毎、夜会をひらいた。
「谷崎とやるんだ」 谷崎の妻にそういって、書斎に駆け込んでいった。
娘三人を代議士の妻に嫁がせ、電子メーカの社長夫人にし、弁護士一族に入嫁させた、その栄華を極めることになる。
その清楚な若い娘は、気丈夫で、その母のようなみだらさはない。出版パーティーではじめて見かけた。 京都の名門の庶民の血を受け、 ダンスパーティを開いた。
臨済宗僧侶である彼に正式な妻はいない、愛人はいた。 「眠ることは天国だよ、眠ってたのしい夢をみるのがいい」
女優は、白鷺の旅館を京都の定宿の白鷺の旅館に、彼をまねいた。
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