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「愛してるのか」
「うち、だいすきやけど、ようわからへん」 帯の飾りを、指先であそびながら、伏せた目つきで、言う。 こしゃくな女は、ふわふわと、視線を向けてくる。 「え?」 「いじめんといて」 「怒った顔も綺麗だ」 「貴之はんが、そういうこといいはるから、よけいわからんようになる」 涙があふれてこぼれた。少したじろぐが、平静を装うと、 「おなかすいたのかい?」 「はい、なんでわかりはるん」 「ないたからすが、もうわろた」 「いやや、いやや」 愛らしいことの表情の出し方を知悉している、その笑顔や、しぐさの細かい芝居がかった、あどけなさは、いつしか技巧的なものでも、天然でもなく、ごく自然な彼女自身であることに気づきはじめていた。 「うどんでもたべにいこか」 「貴之はんの、京都ことば、へんやわ」 「いじめるなよ」 「ふふふ」 その青い色の帯飾りをくるくると回して 「ほな、烏丸やね」 そういうと、彼女は白いBMWを急発進させて、北山の暗くなりかけた道を、下っていった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 21, 2006 06:01:52 PM
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