カテゴリ:だから
細い道を通ると塔のみえる、不思議な町並みを走っている。バックシートから月下美人の香りがしていたから、季節は夏の夜の筈だった。
「すきなひとができたの」 「ふーーん」 「それなに?」 「もう僕はいらないんだね」 「あっても場所にこまらないわ」 「ぼくは困る」 「あなたのほうがすきよ」 「そういう問題じゃない」 「ここで、おりてちょうだい」 BMWは止まり、貴之は降りた。 しばしして、立ち尽くす彼に、傘がさしだされる。 「おはいりになりまへんか」 「もうはいっていますね、、」 「すんまへん」 「いえ、おおきに」 「どちらへ」 「とくに」 「うちもうお座敷おわりどすさかいに、ちょっと、いきまへんか」 「どちらへ」 「よろしうに」 彼は女の鬢の匂いの、その横顔を初めてみた。 ふいに、その唇にキスをして、彼女の傘が音をたてておちた。 両手を首にまわされて、だきしめられたとき、髪油の椿の香を深く、吸い込んだ。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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