カテゴリ:だから
電話が鳴っている。早朝に眠りについて、和室の畳の上に、目覚める。時計を見ると、午前10時だった。もう一度倒れこむ。まだ、電話は鳴っている。誰かが僕を呼んでいる。
眠られせてくれ、しばしこのままで眠らせてくれ。 僕に、その土曜日の午前10時に、もはや50回のコールで、たたき起こす、地球があと5分で、終わるとでもいうのか。 コールが終わった。静寂が戻るが、覚醒してしまった意識は、あらぬことを思考しはじめている。 あらぬこと?PENDINGのままのあのサブルーチン処理?穏やかなはずの、孤独な午後の時間のつぶしかた? コーヒーを入れて、シャワーを浴びる。ああ、また週末が始まったことを許容できないでいる。がらんとしたキッチンに、ひとりコーヒーをすすって、洗い髪のまま、ベランダに出ると、もはや地球の朝は、頼みもしないのに、はじまっている。 つけたままの端末のDISPLAYに、50通のメールの着信がひらめいている。いったい僕に何の用があるというのか。 僕はそういった週末が嫌いだ。しあわせな人々の笑顔を、許容できない。ベランダの下を歩く人は、なにかしらそういったしあわせな足取りで歩いているのを、嫌悪をもって感じてしまうと、僕は、えもいわれない無常な気分に襲われるのだった。 そういう朝には赤いシャツを着て、サテンのズボンで、自転車にのって、仁和寺にでもでかけてしまったついでに、出家して帰らぬ人になりたくなってしまう。 奇妙な海外のメールを大部分削除して、君のメールを探すが、それはなく、おびただしい、だれだかわからない、クラブのおねえさんの求愛にあふれている。 「あいたいわ」 「どこで」 「わすれたの」 「わすれたわ」 「きみはだれ?」 「冗談でしょう、お食事にいきましょう」 「お食事?たぶんそんなことだと思ってた」 「どうしたの」 「出家しようかなとおもって」 「そのために京都にいるの?」 「もしかしたらそうかもしれない」 「わたしを愛してるんでしょう」 「それも執着なのかもしれない」 「シュウチャク?」 ああだめた。どうせ出家したって、深夜の祇園にこっそりと剃髪した光るあたまで、ふらふらとさすらうのかもしれない。いっそ山中の小寺にしないともともこもなくなる。 ぼくはチャットのようなメールをやめることにして最後の言葉を打った。 「さっき電話くれたの あなた?」 「わたしはあなたの電話しらないわ」 、電話番号をしらない女となんで食事しなければならないのだろう、とまださめない気分で、やはり週末なんてろくなもんじゃないと、DISPLAYの電源を落とした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 24, 2006 12:43:57 AM
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