カテゴリ:だから
僕は寂しがりやなので、浴室が嫌いだ。白い壁以外なにもない殺風景な浴室にいると、さまざまな記憶が蘇るからかもしれない、あるいは、一人で浴室にいくようになって、つまり彼女というものがいなくなって数年になるからかもしれない。うつくしい女性と入浴することは、楽しい。男女はそうなるまでにある程度のその親しみがなければそういった場面はありえない。 資生堂の椿のシャンプーとトリートメント、花王のダブのボデイソープと小さな洗顔料。それ以外この浴室にはなにもない。 記憶はかさなりあって、湯船に沈んでいると、やがて美貌の彼女たちが語りかけてくる。 「貴之なにしてるの」 「京都はたのしいの」 「今夜はどこにいくの」 僕は湯船に潜り込んで、彼女たちの残照のリフレクションに、苦しんでいるのか、楽しんでいるのかわからなくなるのだった。 湯船から顔をあげると、しらない女の人が、僕を見ている。 「背中ながしましょうか」 そういいながら、友禅を着た彼女は角帯を解きはじめる。 僕はもはや夢か現か考える余裕もなく、ただその脱衣の様子を指をくわえて見ている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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